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「なるほどな。最初からこれが狙いだったのか。タヌキめ」
「嫌だな。全ては偶然による結果だよ」
狸絆さんはどこか楽し気な笑みのまま、
「茉優さんは、掃除や料理は得意かな?」
「え? あ……人並みには、出来ると思います」
「充分だ。先ほどの畳の水濡れも、手慣れていたしね。実は、近頃新しい事業に手を出してみようと考えていたんだがね、なかなか適任者が見つからなくて困っていたんだ。よければ、手を貸してくれないかい?」
ぱんぱん、と。狸絆さんが軽く手を叩くと、「失礼します」と若い男性の声がした。
見れば庭を望めるほうの開いた襖側の廊下に、片膝をついた男性。小脇には黒いバインダーを抱えている。
腰丈ほどの鮮やかな赤髪を背後ろで束ね、シャツにベスト、ネクタイにアームバンドといった、執事のような装いをしている。
二十歳前後に見える顔立ちは、中性的な美しさを纏っていて。立ち上がるとその手足のしなやかさが際立つ。
すっと顔を上げた彼の、金の瞳がかち合った。
「紹介するね、茉優さん。私の仕事や身の回りにおいて一番に世話になっている、朱角だ」
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