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「そんな、そこまでご迷惑をおかけするなんて……」
「それは違います」
きっぱりと言い放ったのは、朱角さんだ。彼はバインダーから別の用紙を取り出しながら、
「あなた様に不用意に動かれては、どこで例の男に見つかるやもしれませんから。今はこちらで大人しくしていただいていたほうが、俺達にとっても助かります」
「……そうです、ね」
こちらを記載しておいてください、と。渡された用紙を受け取りながら「すみません」と告げる。
すると、マオは不満気に鼻頭に皺を寄せて腕を組み、
「朱角、お前、俺を嫌うのは構わねえが、だからって茉優にまで冷たく当たることないだろ」
「俺は事実を述べたまでだ。それと、俺が忠義を尽くすのは大旦那様にだけだと、お前も知っているだろう。なにも"お前の縁者"だからと愛想を欠いているのではない。うぬぼれるな」
ぴりりとした空気に、私は慌てて、
「朱角さんの言う通りです。それに、私、冷たくされたなどとは感じていません。朱角さん、お手間をかけて申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「……賜りました」
頭を下げた私に、朱角さんが軽く会釈を返してくれる。
充分礼儀を尽くしてくれる人だと思う。
ヒトではなく、あやかしだけれど。
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