あやかしは嫁を逃さない

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「――駄目じゃないか、マオ」  化け狸がわらう。  (かど)わし、(たばか)る唇を惜しみなく吊り上げ、深く曇りのない欲でその目を(つや)やかに色づかせる。 「欲しいのなら、ちゃんと"準備"をしておかなくては。機は自分で作らないと、いくら尽くしたって逃げられてしまうよ」  執着が強く、欲深く。  いかなる理由があろうと、己の"獲物"は手に入れなければ気が済まない。それが、あやかしの本分だ。  俺だって、変わりない。  親父のように生まれながらの純粋なあやかしではなく、猫から猫又へと変化した後化けのそれであったとしても、あやかしであることに変わりはないのだ。  それでも"猫かぶり"が得意なのは、前世の、人間として生きていた記憶が残っているからだろう。  逃してやりたい。記憶がないのなら、なおさら。  理性はそう祈り続けているのに、抗えない本能が、逃してなどやれないと渇望に喉をやく。 「……俺があやかしとして生まれてしまったのは、前世で茉優を守れなかった罰なのかもしれないな」
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