猫又様は幸せにしたい

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(着せてもらったこの浴衣だって、明らかに良いモノだろうし)  和服に不慣れな私にはこちらのほうが楽だろうと、タキさんが見繕い、着付けてくれたこの浴衣。  生成色の生地に、桃色から紅色のグラデーションの牡丹と水色の蝶が描かれていて、纏うだけでお淑やかないいところのお嬢様になった気分になる。  けれど気分になるだけで、中身はただの平々凡々な庶民であって。 「あの、タキさん。こんなに素敵な浴衣、私、汚してしまうかもしれませんし……。着てきた服をもう一度着ては駄目でしょうか?」 「汚れたなら汚れたで結構でございますよ。陽の目を見ることなく、しまわれていたものですので。このまま褪せていくよりは、茉優様に汚していただいた方が、服としての役目を果たせるというものです」  タキさんはまったく、と着付けを進めながら嘆息して、 「坊ちゃまにも困ったものです。いつお会いできるかも分からないというのに、"いつか"のためにと買い込んで」 「え……?」
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