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「私には上等すぎるモノですし……マオさんが好いてくださっていた前世の記憶もなければ、今も、嫁入りの件については断ってしまっていますから」
鉛を吐き出すような心地で、重い口を動かす。
けれどマオは「なんだ、そんなことか」とあっけらかんとして、
「なにも別に、茉優の記憶の有無だとか、嫁入りをしてくれるからと選んだわけじゃないぞ。いうなれば、そうだな。いつか必ず会えるだろうと、お守りのようなものでもあったんだ。今はこうして会えたわけだし、茉優がいらないと言うのなら、全て処分したって構わないぞ?」
「え!? 処分だなんて、絶対駄目です!」
「だが、俺が着るわけにもいかないからなあ。使わないものを箪笥にしまい続けていても、邪魔になるだけだろ?」
「それは……」
マオの様子からして、私がいらないといえば本当に捨ててしまうのだろう。
(それなら……)
「ありがたく、頂戴します」
「ああ、気兼ねなく使ってやってくれ」
押し負けた、というやつなのだろう。
マオはにっこにこと明らかな上機嫌で、私の手を引いていく。
(……いい人、だな)
人ではなく、あやかしだけれども。
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