猫又様は幸せにしたい

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「え? えと、どちらも好きですが、お刺身だとお米のないぶん、種類は多くいただけることが多いので……。お刺身のほうが好き、でしょうか」 「親父」  端的に告げたマオの声は、なぜだか非難の色が濃い。  それでも狸絆さんは「楽しいねえ」と、どこか噛み合っていない返答で。 「こんなに充実した食事の時間は久しぶりだよ」  一連の流れをうまく把握できていないのだけれど、マオが「気にしないでくれ」と項垂れるようにしていうから、あまり追及はしないほうがいいみたい。 *** (けっきょく、食べすぎちゃった……)  お手洗いに立った後、部屋と戻るべく薄暗い縁側を歩きながら、余裕のなくなったお腹をさする。  浴衣とはいえ、帯で締めているはずなのにさほど息苦しくないのが不思議だ。  帯の実力なのか、タキさんの腕がいいからなのか。そもそも知識のない私には、判断がつかない。  判断がつかない、といえば、あやかしという存在についてもそうだ。  私の知る物語の中では、畏怖の対象として書かれることが多い存在だけれど。  こうして実際に会い、言葉を交わした誰も彼もが、優しくて良い人たちばかり。
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