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「不要です。恩に報いたいとお考えなら、一秒でも早くお部屋にお戻りください。あなたに恩を尽くすよう命じているのは、大旦那様なのですから。俺達は命令に従っているに過ぎない」
「っ!」
朱角さんは金の双眸を鋭く細め、
「大旦那様がお決めになった以上、"不要"と判断されるまで俺達は俺達の"仕事"をこなします。ですが一つ、心ばかりのアドバイスを差し上げるのなら、下手な情が移る前にさっさと縁を切るべきですよ。あなたには、何一つ"覚悟"がないのだから」
「――朱角!」
「!」
声に、びくりと顔を向ける。
と、夜の黒を背にして険しい顔で近寄ってくる、マオの姿が。
「茉優、平気か」
朱角さんとの間に割り入り、心配げに眉根を寄せかがみこんでくれるマオ。
私ははっと気が付いて、
「誤解です、マオさん。私がお仕事の邪魔をしてしまっただけで、朱角さんは何も――」
「逃げるのなら、取り返しのつかない事態に陥る前に逃げたほうがいいと教えたまでだ。心配せずとも、お前が隠したい"余計な事"は告げていないから安心しろ」
「朱角!」
怒りの様相でマオが叫ぶ。
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