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けれども朱角さんは一切動じることなく、「仕事に戻る」と薄暗い廊下を歩いていってしまった。
マオが忌々し気に額をおさえる。
「ったく、あの野郎」
「あの、マオさん。言い難いことでしたら結構なのですが、朱角さんのおっしゃってた"余計なこと"って……?」
「あー……そうだな」
マオは苦笑交じりに庭へと視線を流し、
「腹ごなしがてら、少し歩かないか?」
***
マオに連れられ、庭を歩く。
周囲の民家とは距離があるからか、空も木々も、よく知るいつもの"夜"よりも深い藍色に染まっていている。
ホー、と聞こえた独特なくぐもった声に、思わず興奮気味に「フクロウですか?」と訊ねれば、マオは噴き出すようにして笑って「ああ、フクロウだ」と答えてくれた。
「この辺りじゃさほど珍しくもないが、茉優は初めてか?」
「テレビや動画でなら、聞いたこともありますけど……自然の鳴き声を聞くのは初めてです」
「そうか。……今じゃ聞いたことのないほうが多いよな。ああ、足元、気を付けてな」
当然のように差し出された掌に、少しだけ迷ってから手を乗せる。
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