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プロローグ 夢の終わり
幼い頃から、繰り返し見る夢がある。
宙に浮いているような、小舟で揺られているような、心地よい揺れと浮遊感。
横たわったまま身を委ねている私の視界は、霧のように真っ白な薄雲に覆われていて。
なのになぜか、ヒガンバナに似た白く細い花弁を咲かせた花々だけは、妙にはっきりと認識出来ている。
(なんて名前の花だっけ)
知っている、気がする。ずっと……思い出せないくらい、遠い昔。
考えながら目を閉じて、眠ってしまいたい衝動にかられる。
微睡に瞼がうとりとした刹那、その声が現れた。
「――ねね、ねね……っ」
若い、といっても少年ではなく、とうに成人を超えた男性のそれ。
遠く霞む声は次第に大きさを増していき、その声が、悲哀の満ちた切羽詰まったものだと気が付く。
「ねね、ああ、ねね……っ! 必ず、必ず見つけ出す。なあに、"契り"を結んだこの小指が、必ず巡り合わせてくれるさ。だから、だから次こそは――」
目が覚める。夢の中の私じゃない。現実の私だ。
遮光カーテンの隙間から入り込んだ朝陽が、クリーム色の天井をうっすらと照らし出している。
(……"ねね"って、誰なんだろ)
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