結婚の申し入れ

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結婚の申し入れ

ここは軽井沢の老舗家具店、澤口家具。 避暑地·軽井沢の幕開けは、1886年イギリス公使館付宣教師が軽井沢を訪れ、その美しい清澄な自然と気候に感嘆し家族や友人たちにそのすばらしさを推奨。そしてその宣教師が民家を借りて過したのが最初と言われている。さらに1888年には別荘を建て、友人宣教師や外交官に紹介したため年を追って宣教師、外交官などが別荘を建てるようになったという。 別荘が多くなるにつれ、別荘用の家具の需要が急増した。当時の西洋人たちは、木彫り細工の装飾が施された家具を好んだ。そこで、その頃日本で最も華麗な木彫細工の1つを作っていた日光の木彫り職人たちが軽井沢に呼ばれ、西洋人の別荘のために製作した家具が、現在の軽井沢彫りの原型である。当時の職人たちは、西洋家具の形式に日本古来の技法を融和させ、独特の家具を造り出した。現在もその技法は軽井沢彫りとして長野県伝統工芸品の指定を受け、代々引き継がれている。 この澤口家具は今年、創業100年を迎えるのだが、会社としても、創業者を先祖にもつ創業者一族としても、大きな変化を迎えようとしていた。 「真理亜様、旦那様がお呼びです」 「…いい話ではなさそうね。ありがとう、圭子さん。すぐに行きます」
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