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 懐中電灯に照らされた女の口はガムテープで塞がれ、血走った目は大きく見開かれていた。かろうじて全裸は免れて、ブラジャーとショーツを身に着けている。女の両手は後ろ手に、そして両足もガムテープでぐるぐる巻きにされており、肉感的な白い肌が痛ましくも艶めかしい。  女の歳はよく分からないものの、佐原は女の体つきから三十代半ばくらいだと当てずっぽうに思った。女の年齢を推量したり、あちらこちらに打撲痕のある剥き出しの白い体に目を奪われたり、彼の思考はあまりにも思いがけない出来事にグチャグチャになっていた。 『……だめだ。今すぐここを出なければ』  佐原は我に返り女の体から目を逸らして回れ右をしようとしたが、女の必死の視線が彼をそうさせなかった。黒いマスカラが涙で滲んだ目は、飛び出さんばかりに佐原に助けを求めている。  部屋に入ってもう多分二分は過ぎただろう。残り時間あと三分。 『おい、おまえ馬鹿か。泥棒のおまえが人助けなんか出来るか!早く出ろ!早くここから出るんだ!』    一刻も早くこの家から出ろと自分に言い聞かせるが、懇願するような女の目が、佐原の足をピクリとも動かさせないのだ。テープで口を塞がれ呼吸が苦しいのだろう、女の胸は激しく上下している。佐原は数秒迷った末に口のテープを剥がしてやった。『叫ぶなよ』……佐原の心の声が聞こえたのか女は叫ばなかった……が、叫ばずにその怯えた目を佐原から、佐原の頭上に移したのだ。 『ん……?』  佐原が一瞬訝しんだその時、 「誰だ……てめぇ」   凄みのある男の声が佐原の頭上から鉄の重りのように下りて来た。佐原は口から心臓を吐き出しそうなくらい驚いて、恐る恐る屈んだまま首を後ろに捻り見上げると、彼のほぼ真上に黒く大きなシルエットが仁王立ちしているのだった。
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