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「ひっ……!」
またもや情けない声が出て、一気に汗が全身から吹き出した。
「てめぇは誰だって聞いてんだよおー!!」
男は左手に持っていた懐中電灯で佐原の顔を照らした。
「す、すみません……ぼ、ぼくは泥棒で……つい誰もいないと思って」
「泥棒だあ……?」
男は足で佐原の腰を力一杯蹴り上げた。
「うっ……」
佐原は腰から腹まで響く重く強烈な打撃を受け、前のめりに倒れた。そして女の体に覆い被さる体勢になった。女はこの男に監禁されているのか。『やばい……』更なる危険を感じた佐原は小刻みに震える手を上着のポケットに入れ、常に忍び込ませている大型サイズのカッターナイフを掴んだ。
男が呻くようにつぶやく。
「ああ面倒くせえなあー、ひとり増えやがった」
そう男は本当に面倒くさそうに言うと、左手で佐原に懐中電灯を照らしたまま、右手をゆっくり振り上げた。なんとその右手にはハンマーが握られている。躊躇なく大きく振り上がったハンマーのシルエットを見た佐原は、五センチほど出したカッターの刃を思い切って男の太ももにブスッと突き刺した。
「あイターーッ!!」
男が絶叫した。
佐原は突き刺した刃をキュッと抜いて、そのままブスッブスッと盲滅法で何度も刺し続けた。男は堪らずハンマーと懐中電灯を放って傷口に手をやり尻餅をついた──と、佐原は自分で驚くほどの素早さで男のハンマーを両手に取ると、中腰の体勢のまま男の頭にそれを「わーーッ!」っと、思いっ切り振り下ろした。
頭蓋骨が陥没したゴツッという鈍い音がして、生温かい液体がピチャッと跳ね佐原の顔に掛かった。恐怖がそうさせたのか佐原は男の顔面が、踏み潰した柘榴のようになってもハンマーを振り下ろす手を止めなかった。ホラー映画のヒロインなみの女の悲鳴が耳に届くまで──。
午後一時四十六分。
時として人生は十五分で終わる。
──
間もなくパトカーのサイレンの音が静かな住宅街に鳴り響いた。異様な叫び声や物音に近所の住人が通報したものと思われる。
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