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 ■  悪運強く、警察に捕まることなく佐原の泥棒行脚は三年目を迎えようとしていた。捕まるまではいかなかったが危ういことは何度もあった。──とは言ってもこれから彼に降りかかる厄災は、危ういなどという生易しい言葉を何百回使っても到底表せないものである。  ──  前年に引き続き観測史上最高気温を記録した猛暑が終わり、泥棒行脚に絶好の季節が到来した。佐原は足取り軽く、ある住宅街を歩き回っていた。いつものように一軒も素通りすることなく呼び鈴を鳴らして行く。    その日は週末であり絶好の行楽日和で、佐原は留守宅が多いに違いないと見越していた。彼は一貫して軒並みに呼び鈴を鳴らすという基本は守ってはいたが、好むのは洒落た現代風の家より透かしブロックがあるような、昔ながらのコンクリート塀に囲まれている家だ。  一軒目……二軒目……三軒目……四軒目……  五軒目……六軒目……七軒目……八軒目……  九軒目……十 『ここだ!』    佐原はこの日、十軒目で理想的な古い純日本家屋に出くわした。    佐原は呼び鈴を鳴らす。  ピンポーン  ピンポーン  ピンポーン  …………  応答なし。
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