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「妖精箱の中で……ただ真っ白なだけの空間の中で……ずっと独りきり。さみしくて、さみしくて……気が狂いそうだった」
いや、狂ってしまったのだ。
「ルチア……どうして……」
お城の大広間で開かれた魔王を倒す旅の終わりを祝うパーティ。
そこで勇者様や特級妖精や神話級妖精や……旅の大切な仲間たちと笑い合っていたあなたを見て。数年ぶりに妖精箱から出した私の姿に呆然とするあなたを見て。
涙ではなく歪んだ笑みがこぼれる程度には狂ってしまったのだ。
「中等科を卒業するときには中級妖精たちと、高等科を卒業するときには上級妖精たちと契約を解除してお別れしたのよね。きっと、それが正解。私も初等科を卒業するときにお別れするべきだった。……あなたと、お別れしなくちゃいけなかったの」
光妖精特有の光り輝くような純白の髪と羽が自慢だった。
あなたが気に入ってくれた、真っ白な髪と羽が――。
だけど、ただ真っ白なだけの空間で過ごした時間が一つ、二つと私の光を奪っていった。
一本、二本と髪は黒くなって。
一枚、二枚と羽は黒くなって。
自慢だった純白の髪と羽は漆黒に変わってしまった。
「もう絶対に契約を解除したりなんてしない。ずっといっしょにいる。そんな、あの日の約束をあなたは守ってくれた」
だって、私が入っている妖精箱を両手で包んで毎日、私に話しかけてくれた。
「でも、あの日の約束をあなたは守ってくれなかった」
だって、妖精箱の中にいる私の声はあなたに届かない。
あなたの手を包み込むことなんてできない小さな小さな手だけれど、それでも涙を拭ってほおずりすることくらいはできた。
でも、妖精箱の中にいる私にはそれすらもできない。
「あの日、約束したとおり。あなたはずっといっしょにいてくれた。でも、いっしょにいてくれなかった」
夜遅くまで勉強机に向かって、教科書をのぞきこんで、うんうんうなりながら何度も練習して、試行錯誤した昔のあなたと私のようにいっしょにいることは……できなかった。
「勇者様もみんなもやめて、武器をおろして! ルチアは私の一番の仲良しで、唯一無二の……!」
お城の大広間が騒然となったのは漆黒の髪と羽が私が闇妖精なのだと示しているから。
闇の眷属は魔王の眷属だから。
あなたの制止にみんな、武器をおさめた。これなら討伐されるようなことはないだろう。
でも――。
「きっと、あなたといっしょにはいられない」
あなたと引き離されて、籠に入れられて、寿命が尽きるまで閉じ込められることになる。
「あの日、約束したもの。一度、交わした約束は破らない。……破れない」
私が妖精だからか。それともあなたの一番の仲良しで、唯一無二の親友だからか。
どちらにしろ、一度交わした約束を破ることなんてできないのだ。
だから、私は漆黒の羽を広げ、漆黒の髪をなびかせ、あなた目がけて真っ直ぐに飛んだ。
人形みたいに小さくて弱い下級妖精の私と違って特級妖精や神話級妖精たちはあなたと同じくらいの大きさで、私とは比べものにならないくらい強い。
「みんな、やめて!」
強いから、あなたの――魔法使いの命令があろうとなかろうと魔法を使うことができる。
私なんて一瞬で消し去られてしまう。
「ルチア、やめて! ……ルチアァァァ!!!」
「あなたとずっといっしょにいる」
あなたの悲鳴のような声を聞きながら私は微笑んだ。
「だから……今までのように毎日、話しかけて」
あなたへと腕を伸ばしながら微笑んだ。
「毎日、笑いかけて、抱きしめて」
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