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10
「ヴォルフラム、お前ジュディット嬢を泣かしたんだって?」
執務室で積み上げられた書類に目を通していると、少し離れた場所で同じく書類を眺めていた茶髪の青年が話し掛けてきた。
「別に、君には関係ないだろう」
素っ気なく返すが、彼は意に返さない様子で話を続ける。
「しかもその場にレナード王子も居合せて、兄弟でジュディット嬢の奪い合いをしていたって噂になってるぞ。日頃仲睦まじい弟と婚約者に遂に王太子殿下が我慢の限界を超えたとか」
これだから社交界は面倒臭い。下らない噂話が好きで困る。
数日前、さっさと済ませたくて適当に中庭でお茶にしたのが間違いだった。あんな人目のつく場所、誰が見ているか分からない。軽率だった。
ジュディットを泣かせたまでは良いが、レナードと取り合っているとなると大分意味合いが変わってくる。元々三角関係だ何だと言われているのに、これでは更に拍車が掛かってしまう。
もしこの噂がユスティーナの耳に入ったら、どう思われるか……。面倒な事になった。あの二人の所為で、最悪だ。
「全く、有る事無い事言われて良い迷惑だよ」
苛々してきて、思わず舌打ちをする。
「まあ、そんな怒るな。で、本当の所はどうなんだよ。レナード王子に嫉妬して、ジュディット嬢を泣かせたのか?」
「エドガル、君分かってて言ってるよね」
「ハハッ、悪い悪い。一応聞いてみただけだ」
彼はエドガル・ロワイエ。態度も口も悪いがこう見えて公爵令息であり、ヴォルフラムの側近兼友人だ。切れ者でこれでも頼りにはなる。
「昔からお前はジュディット嬢にまるで関心がなかったからな」
「まあね」
ヴォルフラムは急に気が削がれて、仕事机から立ち上がると長椅子に座り直した。少し冷めたお茶に口を付ける。するとエドガルも向かい側の長椅子に座って来た。まだ何か話したそうな表情をしている。絶対陸でもない事を考えているに違いない。
「そう言えばヴォルフラム、お前最近良く何処かに出掛けて行くよな。もしかして、女がいるのか?」
「……別に」
「へぇ、いるんだな。で、お前がそんなにご執心なんて一体何処のご令嬢だ?」
「いるなんて、一言も言ってないけど」
「いないとも言ってないだろう。お前の反応を見ていれば分かる。絶対に、黒だ」
ニヤニヤしながらヴォルフラムの反応を伺っている。此処でムキになって否定をすれば認めたと同じになってしまう。
「じゃあ、そう言う事にしといて良いよ」
「何だよそれは」
「ほら、まだまだ仕事残っているんだからさ、無駄話は終わりだよ」
不満そうにまだ何かごちゃごちゃ言っているエドガルを無視して、ヴォルフラムは仕事机に戻り溜息を吐く。無性にユスティーナに会いたいと思いながら、また書類に目を通し始めた。
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