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5
ーー怖過ぎる。
最近良く彼に会う気がする。
ユスティーナは教会と孤児院の狭間にある庭で子供達と遊んでいるヴォルフラムを見ていた。
「あれから彼、たまに子供達に会いに来て下さっていますね」
サリヤが隣に来て一緒にヴォルフラムや子供達を眺める。
「それにしても、育ちの良さそうな方ですよね」
「あはは……そうですね」
王太子殿下ですから当然です! なんて口が裂けても言えない。まあ言った所信じるかも微妙だが。誰も王太子が一人でこんな場所で子供と遊んでいるなんて思わないだろう。
ヴォルフラムと教会で出会してから早三ヶ月経つが、ユスティーナが教会を訪れる度に必ず彼がいる。シスターの話ではユスティーナが来る日だけたまたま彼が来訪するそうだ。始めは偶然だと思っていたが、こうも毎回ピンポイントで出会すと偶然だと思えない。怖過ぎる……。やはり、また何かを仕掛けてくるつもりなのだろうか……。
「あ! フラムさん、また……摘み食いはダメっですって言っておいたのに」
人手が足らないので一人で調理場で作業していると、子供達のおやつ用の焼き上がったばかりのクッキーをヴォルフラムが横から手を伸ばして口に放り込んだ。
「ごめん、ごめん。ちょっと小腹が空いちゃってね」
まるで悪戯がバレた子供みたいにヴォルフラムは、舌を少し出して笑った。その姿にユスティーナは思わず笑ってしまう。
「フラムさんって意外と子供みたいですよね」
名前をそのまま呼ぶ訳にはいかないので、此処にいる間はヴォルフラムの事は「フラムさん」と呼んでいる。彼とは少し前までは挨拶程度しか話した事がなかったが話してみると気さくで話し易い事もあり、最近は少し軽口を交わす様にもなった。だが、油断は禁物だ。それだけは忘れない。
「そうかな」
「えぇ、そうです」
ユスティーナは作業を続けなが相槌を打つ。
「でも君の前でだけだよ」
「っ⁉︎」
さっきまで壁に寄り掛かっていた筈の彼は、何時の間にかユスティーナの背後に周り肩を掴むと耳元にでそう囁く。
「ヴォ、ヴォルフラム殿下っ」
ビクリと身体を震わせ、慌てて後ろに飛び退く。耳を押さえて、ヴォルフラムを見遣る。
「呼び方戻ってるよ」
少し意地悪そうに笑うと、彼はまたクッキーを一つ摘むと口に放り込み、そのまま菓子屑のついた指を舐める。その間も真っ直ぐにユスティーナから視線を逸らす事はない。そんな彼に、気恥ずかしくなり、ユスティーナは不自然に彼から視線を外した。
「ユスティーナ嬢も食べないの? 甘くて美味しいよ」
「だから摘み食いは……」と言いたいのに声が出ない。心臓が煩いくらいに脈打つのが分かる。何だか最近自分がおかしい……。
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