4人目の証言

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4人目の証言

 4人目は私より少し年齢が上の男性だった。こう言っては失礼かもしれないが、いたって平凡な男性で年相応に感じる佇まいが、かえって印象に残った。  「何か手助けになるならと思って今日は来ましたが、貴方が満足するようなお話じゃなかったらすみません」  それから男性が記憶に残っていることをポツポツと話始める。  「ちょうど出張で地方に出かけてた時なんですけど、仕事終わりに1人で飲んでたんですよ。それから程良く酔いも回ったのでホテルに戻ろうとしたら、妙に存在感のある石があったんですよ。普段なら石なんか拾わないのに、その時は何故か手に取ってしまったんですよね」  ここまでは似たようなことを言っている人が多い。  「ただ不思議なことに、その拾った時のことは良く覚えているのに、それ以降のことは全然覚えてないんですよ。……いや、覚えてないと言うよりは、印象に残っていない。の方が正しいのかもしれません」  そう言う男性は、自分でも納得はしてなさそうに頭を抱えていた。  「些細なことでも良いので、変化などはなかったですか?」  「うーん、それが本当にないんですよね。良くも悪くも、自分の日常が続く感じで……。それで気がついた頃には、石も無くなっていたんですよね」  それ以上は変わった話が出てくることもなく、男との面会は終わった。結局大したことを話せず申し訳なかったのか、謝礼も受け取らずにそのまま別れることになった。  
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