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異邦時者保護監察官
自己紹介が遅れた。俺は厚労省異邦時者保護監察官、千石京一だ。表向きの仕事は異邦時者の社会復帰を円滑にし、その後のケアをすること。裏の顔はとりあえず今は伏せておこう。
異邦時者がどういう経緯で現代日本へ来るのかは謎だった。
ただ、事情聴取によって、彼らが心の底から「人生をやり直したい。別の生き方をしてみたい」と望んでいることだけははっきりしていた。死を迎えたとき、彼らの混濁した意識に「もういっかい、いきてじんせいをやりなおしたいかー?」という声が聞こえたという。「やりなおしたいー!」と答えたら、小平神社の境内に現れたというのだ。
彼らが転生、あるいはタイムリープした後の歴史がどうなるのかという懸念も生じたが、歴史に変化はなかった。考えてみれば、全員、死んだ後で現代に現れているのだから歴史が変更されるはずもなかった。ただし、皆、人生をやりなおすにあたって、自分が希望する年齢で再生していることもわかった。秀吉は没時よりも多少、若くなって現われたし、細川ガラシャもクレオパトラも楊貴妃も、現われた時は死亡時より若々しかった。やはり女性は美意識が強い。
彼らの存在は機密扱いだった。
利害関係者がいるかもしれないからだ。その重要性に気がついたのは、ヒトラーが現われたときだった。あのときはさすがに関係者一同、上を下への大騒ぎになった。
ヒトラーの存在が周知されたら、イスラエルの諜報機関「モサド」が黙っているはずがないからだ。国際紛争にも発展しかねない。いや、必ずや発展する。ヒトラーには整形外科手術が施され、さらに他の異邦時者と異なり、行動の自由が著しく制限されることになった。それ以降、好ましくない異邦時者の出現に対応するためのマニュアルが準備された。
こうして「異邦時者保護プログラム」のもと「異邦時者個人データベース」はトップシークレット扱いとなった。
幸い、異邦時者は日本にしか現れなかった。きっと小平神社としかこのやりなおし転生現象の出口が繋がっていないからなのだろう。
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