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やりなおしのやりなおし
「いいか」
「いいわ。やってちょうだい」
助手席のミレーユが少し強ばった笑みをうかべて俺の背中を押した。
俺はアクセルを思いきり踏み込んだ。
ホイールスピンの白煙が上がり、車が突進する。
眼の前の小平神社がぐんぐん迫ってくる。
まず鳥居の右足を砕いた。
後方で鳥居が崩れ落ちる。
社殿の低い基壇を駆け上がり、四輪駆動車は社殿に突っ込み、突き抜けた。
もうもうたる埃が舞い上がり、視界が隠される。
俺はバックギアを叩き込み、倒壊しかけた社殿にとどめをさした。
「千石、楽しかったわ。短い間だったけど、あなたのことは忘れない」
小平神社が倒壊した瞬間、助手席のミレーユの姿がすーっと消えていった。
日本全国に散らばる異邦時者すべての姿が消えた。
失職だな。
俺は助手席のシートの上にかすかに残ったぬくもりと、柔らかな微薫を吸いながら思った。
異邦時者がいなくなり、今後、現われることもないだろうから、異邦時者入国管理局は解散だ。
俺は人生をやりなおさなければならない。
それは時量師神にとっても同じことだろう。
神界の下克上に失敗した神様は、俺に僅かな時間だが、夢を与えてくれた。そのことだけは感謝しておこう。
(了)
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