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風に吹かれて
ようやく海岸に辿り着く。
老朽化した桟橋の先に一艘の古い漁船のような船が、恋人を待ち続けて疲れ切ったかのような雰囲気を醸し出す。
砂浜を走り抜け、今にも朽ち果てそうな木製の桟橋を走る。
草臥れた船に辿り着く。
船の中にいた男が、ポケットから写真を取り出し、じっと眺め、私に船に乗るよう指示を出す。
漁師なのだろうか。
観光業で船を扱っているようには見えない。
乱雑な船の中にゆっくりと座り込む。御影はまだ来ていない。待たすより、待たされる方が気分は楽だ。
つまらない拘りだったかな。
私がぼさっと空を眺めていたら、男は何も言わず、船のエンジンをかけ、船を出す。
船は一気にK島から離れていく。
「待って。御影さんがまだ来ていない」
私は慌てて、男に大声で話しかける。
「これが御影さんとの約束だ。写真の女が来たら、船に乗せ、本国に戻る」
男はそう言うと、前を向き、黙って船の操縦に集中する。
そういう事……。
御影が改造拳銃と交換してくれた銃をじっと眺める。
これは御影の拳銃か。
今になって冷静に考えると、日本でここまでの性能の拳銃を手にすることができるとしたら、警察か自衛隊くらいだ。
御影は初めから死ぬ覚悟だったと言うことか。
だから、自分が所持する武器は、劣悪な改造拳銃で良かった。
二人の人間を死なせてしまった、お前なりの決着のつけ方だったのだろうが……。
死んじまったら終わりだろう。
何も残りやしねえよ。
『沖田さんにまで死んで欲しくない』なんてほざきやがって。
自分はおとりになって、かっこつけただけだろうが。
つまらねえな……。
つまらな過ぎるだろ!
エンディングが!
頭の中で何度も怒鳴り声を響かせる。
北の冷たすぎる刃物のような風に……。
ただ、吹かれながら……。
FIN
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