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私達は何度も電車を乗り換え、駅から少し離れたファミレスに入った。
「私はもう公安じゃないです。ここまで慎重に事を運ぶ必要はないですよ」
「元公安さんには、監視がついていますよ。ご存じでしょう」
「元公安と呼ばれるのも……。私の名前は御影 咲野(みかげ さくや)です」
男は名を名乗った。本名かどうかは、今の段階では分からない。
「私は沖田 えりな、ご存じよね」
御影は静かに返事をする。
「話の続きを教えてください」
「止まった事件を解決に導きたいの。どんな物語にも結末が必要でしょう」
「止まっていた時間を再び動かすと言うことですか。かなりの労力を要しますね」
「惚けなくても良いでしょう。御影さんも知りたいでしょう。物語の結末を」
「今の私にとって、それが良い事なのかどうかは判断できません。しかし、うやむやな状態で終わってしまったのは事実です」
「物事ははっきりさせた方が良いでしょう」
笑みを浮かべながら、御影を見据える。
「今、背中にゾクッとした寒気を感じました。決意の固さの奥に恐怖を感じますが、はっきりとした結末を導くべき事件かもしれませんね」
「決まりね。早速、教えて欲しいことがあるの。あの企業を調べていた理由は」
「R国が不法占拠しているK島への進出の情報を掴んだので、あの企業を調べていました。しかも、日本に来ていたR国の外交官との繋がりもあるとのことだったので」
「スケールが大きいわね。総務の泉さんからの情報だけじゃ厳しかったでしょう」
「他にも情報提供者は何人かいました。私の失態で、全てが台無しになってしまいましたが……」
私を拉致監禁して、レイプをした奴らは、R国の連中か。あの企業がK島に進出する際に、表に出てはまずい情報があった訳だね。
「どこまで情報を掴んだの。表に出せないものもあったでしょう」
少し突っ込んだ質問をしてみる。
「そこを調べていたんですけどね。尻尾を掴む事は出来ませんでした」
「そこに今回の事件の原因が潜んでいるんじゃない。そこにどんな結末が潜んでいようと、関係はない。私が納得する結果が欲しいわね」
「分かりました。公安を離れてしまいたが、警察にはいますので、動きは取れますよ」
「分かったわ。ところでその時のR国の外交官はどうなったのかしら。詳しい情報がほしいわね」
「調べておきますよ。他には」
「あの企業がK島に進出することが出来るようになった理由ね。そこは、私も調べるけど、御影さんも協力してくれますよね」
「協力します」
他にも幾つかの気になる点をお互いで確認をしてから、私達は握手を交わして別れた。
協力者になってくれるかどうかは賭けだったけど、御影にも警察官としての本能は残っていたということね。
さてと……。
何処から手を付けようかな。
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