模索

3/5
前へ
/35ページ
次へ
 杉山がベッドの上で意識を戻す。包帯の巻かれた顔が痛々しいな。かなり殴られたのだろう。 「大丈夫か杉山。安心しろ。私の車でここまで運んだ」 「沖田刑事。復帰されてたんですか。元気になって、良かったですね」  軽い感じの挨拶をしてくる。 「残念な事に、お前をぶちのめした犯人は取り逃がしてしまったよ」 「そうですか。助けてもらって、申し訳ないですね。沖田刑事が無事でよかったです」  疑わないのか。相変わらずつまらない奴だ。 「そう言えば、あの外国人……」 「何か思い出したんですか!」  杉山は一気に上体を起こし、表情を歪める。 「確か、R国語を話していたな……。それと……。以前、某企業で見かけたことがあったかな」 「確かですか!それ!」 「忘れやしないよ。あの時、何故、R国の人間がこの企業にいるのか、不思議で仕方なかったからね」 「そうですか。貴重な情報、ありがとうございます」 「それと、この件は黙っておく。越権で面倒な事になりたくないからな」 「良いんですか。すいません。助けてもらった上に、情報まで頂いて。悪いですね」 「気にするな。速く怪我を直して、頑張れよ。あの外国人、速く捕まるといいな」  杉山は深々と頭を下げる。  私は笑みを浮かべ会釈をして、病室を出ていく。  廊下を歩きながら、思わず笑いだしてしまう。  杉山!  私からのプレゼント、大切に使ってくれよ。それなりに期待しているからな。  後は、杉山がやってくれるだろう。それなりの結果は、間違いなく得られる。  それにしも……。  杉山、少しは人を疑えよ。  途中で笑いを堪えるのに必死だったよ。  大失態をやらかした後に、取り返そうと躍起になって、冷静さをうしなってしまう部分があるのは分かるけど……。  私の情報の出し方、変だっただろう。  それに……。  私が犯人を取り逃がす訳、ないだろう。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加