信念の地

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 拍手の音が響く。  ニコライは笑みを浮かべて、車椅子を動かし、私に近づいてくる。 「この男は元特殊部隊の者です。お見事です」 「他に言う事はないのかしら」  敢えて挑発的な対応をする。 「命を賭してまで、貴方を突き動かしたものはなんですか」 「納得のいく回答が欲しいだけですよ」 「簡単なようで、とても難しい旅路だ」 「ニコライさんをここまで突き動かしたものは何かしら」  同じ質問を返してみる。 「許せなかったんですよ。我が国の行ったことが。所有権を誇示するために無理やりここで生活を送る事になった人々を見捨てたことが。泥水を啜り、雑草を食べる。地獄のような生活でした。日本人がこの島を去る時に残してくれたものを頼りに生きてきました。そんな状況に陥ってしまった自分の故郷を救いたかった。そこで、自分の国ではなく日本に助けをもとめた訳です」 「助けを求めた。笑わせないで。領土問題の件を上手く利用しただけでしょう。日本人をケシ畑で強制労働。やっていることはR国の連中と一緒。違うかしら」  綺麗事を事実に変換してやる。 「それは違う。彼等には休憩と休日もあるし、給料が支払われている。それに、彼等は希望して来たはずだ。私としては故郷を救いたかったのだ。麻薬で得た収益に頼っているので、方法は違法的なものとなってしまった。ただ、我が国が麻薬に汚染されても、この小さな村が救われるのであれば、それでよかった」 「ものは言いようね。彼等は帰りたい時に帰れるのかしら。過去に囚われた男の妄執の果てとしか言いようがないわね。貴方の願いを叶えるために、尊い命が失われた事はご存じかしら。貴方にとっては、大意を果たすための小さな犠牲でしかないのでしょうけど」 「全てを投げ打ってでも果たしたかった願いです。犠牲なき改革なんてあり得ないでしょう。権力の濫用こそあったが、私はこの小さな村の民を救った。この事実だけは語り継がれ、歴史となります」  歪んだ理想論に取りつかれ、狂気に支配された人間の脳を、改革するのは困難極まるわね。恐らく、どんな残酷な拷問にかけても、この男の脳内が変わる事は無い。  ここで私が終わらせるのが妥当かな。 「ニコライさん。終わりにしましょう。貴方を救う方法はこれしかなさそうなので」  改造拳銃でもこの至近距離なら、外す事はないでしょう。  私なら……。  私は懐から改造拳銃を抜き、右腕をしっかりとニコライに向け、躊躇なく引き金を引く。  弾丸は確実にニコライの頭を打ち抜き、車椅子を深紅に染め上げた。  銃声が静寂を打ち破ったのか、沢山の鳥達が一斉に空を舞う。  死にゆく者への祈りのように……。  過去に囚われた哀れな男の結末を語るかのように……。  私は改造拳銃を懐にしまい、ケシ畑が創り上げる絶景を見渡し、深呼吸をする。  ニコライを殺したことは、村に直ぐに知れ渡るだろう。  無事に逃げ出せるとは思っていない。  ただ、ここから先は、ノープランだ……。   
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