暗転

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 目の前の景色がやたらとぼやける……。  身体中が痺れているような感覚……。  頭がズキズキと痛む。  頭を軽く左右に振ってみる。少しずつ意識がはっきりとしてきた。  暗い所にいる。倉庫みたいな所だろうか。空気がやたらと埃っぽい。  男の話声がきこえてくけど、何を喋っているのか分からない。  身体が動かない。両腕と両脚を動かそうとするけど、全く動かず、手首や足首に硬い物を感じ、自分が椅子に縛り付けられていることにようやく気付く。  過去が頭の中に映し出されてくる。  私は数人の男達に襲われ、捕らえられてしまったことに、ようやく気付いた。  私が意識を取り戻した事に気が付いたのか、三人の屈強な男達が近づいてきた。三人とも黒い服で、顔は黒い覆面のような物で隠されている。  しかも、話している言葉が分からない。何処の国の人達なのだろう。  外国の人達に恨まれる覚えはない。  訳が分からない。 「おいっ。お前が捕まえた女から聞いた事を、全て教えろ」  一人の男がたどたどしい日本語で問いかけてきた。  例の事件の事か。泉さんは何も話さなかった。私が知っているとしたら、彼女が何らかの形で、某企業の機密漏洩事件に絡んでいると言うことくらいだ。  押収した資料でさえ、目を通していない。  何も知らないのと一緒だ。 「彼女からは何も聞いていない。知らない」  そう返答した刹那、顔面に硬くて重い衝撃と激痛が走る。悲鳴を上げる時間も与えられなかった。口の中が一気に鉄が錆びたような状況になる。 「嘘をつくな。正直に答えないと、死ぬことになるぞ」  男は指で、私を左の方を見るように示す。 「そっ、そんなっ」  言葉に詰まってしまった。視線の先には、泉さんと冴木刑事が横たわっていた。二人とも顔が痣だらけになっている。しかも、ピクリとも動かない。 「なんてことを!こんな事をして、ただで済むと思ってるの」  男達を睨み、強気で言葉を放ったが、殴られる結果で終わってしまった。  口からダラダラと血が流れだし、服を真っ赤に染めていく。 「正直に話す事だ。死にたくはないだろ」 「何も知らない。本当よ」  お腹に突き刺さるかのようなパンチが叩き込まれる。濁りきったような声を出し、体内が鉛のような重苦しさに襲われ、身体中から異常な程の汗が流れだす。  更に、何度も顔や腹を殴られたり、蹴られたりした。  吐き気に襲われ、口から一気に嘔吐する。吐瀉物の饐えた匂いが鼻から入り込み脳に強力な刺激を持って襲い掛かる。  何度も嘔吐を繰り返し、吐き出すものが無くなってしまい、身体が酷い痙攣を起こしたかのように何度も大きく震える。  両肩を震わしながら必死に呼吸をする。口や鼻から流れ出す血が止まらない。  身体は血と吐瀉物に塗れた。  それでも、私の返事が変わる事はない。知らないのだ。二人を捕らえた段階で、捜査は中止となったのだから。  最も知っていたところで、こいつらには何も話さないけどね。 「何も知らない。お前達に話す事は何もない」  男達を睨みつけ、何度も同じ言葉を繰り返す。  何度殴られ、蹴られようとも……。 「強情な女だな。やるか」  一人の男の発言に、他の二人の男が頷く。  一人の男に椅子ごと蹴り倒される。  別の男がロープを解く。  解けた瞬間を狙って、反撃を試みたが、焼け石に水だった。  身体中を何度も踏みつけられるように蹴られ、動きは止まってしまい、何度も身体が大きくビクンと震えてしまう。  全身が麻痺してしまったような感覚に襲われ、衝撃こそ感じても激痛がやたらと鈍くて重い感覚になってしまっている。  三人の男達に制圧されるのに、時間は掛からなかった。  身体はあっという間に抑え込まれ、両腕と両脚の動きは封じられ、服が破かれていく乾いた音が、やたらと虚しく響き渡っていく。  身体に全く力が入らない……。  異常な程の悔しさと共に、自分の無力さに怒りを覚えるが、結局、何も出来ない。  上司に捜査を止められたあの時の自分が、今、ここにいるのだ。  男達のゴツゴツとした汚い手が、私の身体を蹂躙していく。  丸裸にされても、何もできない……。  悪夢だと思いたいけど、これは残酷な現実。  下腹部に襲いかかる、醜い異物どもの狂った、穢れ切った欲望。  醜い獣の侵入を身体は許してしまっているのに、心だけが異常な程に拒み続ける果てに感じる、絶望の底を這う虚しさの限界点。  身体が下腹部を襲う振動に合わせて震えるように動く中、意識が遠のいていく。  この苦しみから解放されるなら……。  さっさと殺してよ……。  この時だけは、真剣にそう考えていた……。
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