第1話 親子

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第1話 親子

田中義雄50歳は、ドラッグストアで父親のオムツを買うのが習慣になっている。 オムツといっても父親の83歳の一義の介護を始めたばかりの10年前は、品揃えの多さに戸惑った。 昼用、軽い散歩用、夜用、寝たきり用、厚型、薄型、など最初は下手なものを買ってしまい、父親に悲しい思いをさせた。 今では、迷わず寝たきり用の薄型を買う。 夏休みの日曜日のせいか、人でにぎわっている。義雄と同世代くらいの家族、カップル、老夫婦、みんな少なからず笑顔だ。 父親のオムツと軽い昼食を買い、義雄は自宅に戻る。 要介護2の父親は、百人待ちの介護施設にすら要介護3にならなければ、入所できない。 介護は、要介護1が1番軽く、1番重いのが要介護5だ。ほとんど寝たきりで、意識があるかないかの人だ。 父親の一義は、手すりなどを使い、義雄の介助があれば歩ける。 食事も義雄が作る料理を食べられる。月に1度の軽い認知症の薬をもらいに通院して、自分の話も話せる。 自宅に帰り、テレビをつける。リビングは2階で一階が義雄と一義の寝室だ。 老々介護での事件のニュースが流れていた。テーブルのイスをひき、座る。 「辛かったろうな・・・」 思わずそんな言葉がもれた。80の旦那さんを80の奥さんが介護に疲れて命を絶った。情状酌量で、罪は免れたが、その先の人生に待っているのは、闇だろうか? チャイムの音に我にかえった。今日は、周3で国からの雀の涙のような助けのお風呂の介助のヘルパーが来る日だ。 確か今日でヘルパーを辞めると言っていた。自分が介護を始めて、その過酷さを嫌と言うほど知った。 誰が助けてくれる分けでもない。国は資金難で老人が増えても、援助を減らし、しめつける。 育児とは違い、成長もなく衰え、待つのは死のみだ。 義雄は、テレビを消して、重い腰をあげた。 2年間お世話になった、お風呂の介助の40代の女性は、力だけではなく器用に父親をお風呂に入れたあとに、父親に辞める事を伝えた。 帰り際、頭を下げられた。 「田中さん、本当にお世話になりました。この仕事を続けたかったんですけど、子供が受験生で辞める事になって。引き継ぎの方は男性の渡辺さんで、来週から来ます」 お世話になったのは、こっちだと思いながらも、なけなしの愛想笑いを出し義雄も頭を下げた。 親子2人になった家は、まるで息を止めたように静まりかえった。
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