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それは、突然やってきた警告だったのかもしれない。
「香澄! 香澄、しっかりして…!」
二人で一緒にデパートを歩いていたとき、急に香澄が倒れたのだ。
抱きかかえ、声をかける私のそばで近くにいた人が救急車を呼んでくれた。
救急車を待つ間は気が気でなく、病院に着いてから、
香澄の携帯から湊斗さんに連絡した。
湊斗さんは、すぐ出てくれた。
「香澄、遅いじゃないか。心配して… 香澄?」
妻を案じる夫の声、かけているのは香澄だと思っている。
「海堂さん…」
「え? 小夜子さん!?」
私だと知って湊斗さんの声が変わる。
「ごめんなさい…。香澄が、急に倒れて…」
「香澄が!? 小夜子さん、今どこに?」
「今から言う病院へ来て下さい。場所は…」
私は、震えそうになる声で説明した。
小一時間から一時間くらい経って待合室にいる私に、
湊斗さんが息を切らしてやってきた。
「小夜子さん!!」
湊斗さんは、私を結婚後の姓で呼ばない。
「タクシー飛ばしてきました。香澄は…」
「今は、お医者様が見て下さってます」
「…そうですか」
ひとまず待合室の椅子に座り、申し訳なさから私は泣き出してしまった。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。一緒にいながら、気づけなくて…」
なぜ気づけなかったのかと悔しさからみっともなく泣けてしょうがない。
「小夜子さんのせいじゃないですよ。病院に付き添ってくれたんでしょう?
ありがとうございます。ここからは、私がいますから小夜子さんは帰って頂いて…」
「帰れません。…帰れないです…」
「小夜子さん…」
頭の上で湊斗さんがため息をつくのが聞こえた。
「まるで姉妹みたいに仲のいい貴女にも(香澄は)話してないんですね…」
「え?」
湊斗さんは、諦めたようにそう言うと。
自分が話したことは内緒でと人差し指を立て、
寂しそうに視線を泳がせると言葉を選んでぽつりぽつり話してくれた。
香澄は、生まれつき体が弱く長く生きられないだろうと医師に言われていたらしい。
小さい頃から入退院を繰り返し、それは私達が学生寮にいた時もそうだった。
「僕は、そんな香澄が子供を出産するのは正直不安でした。
だから子供を作る気にもなれなかったんですが。…それでも子供がほしいと言い、
最終的には二人で子供を望んで娘が生まれました」
「…………」
「あと僕は、知らなかったんですが。母が古い人間でして跡継ぎを、
男の子を産むようにいろいろ言っていたみたいです」
「そんな、健康に生まれてくれたら性別なんて…」
「僕もそう思ってます。母にはもう何も言わないよう言い、
妻を守るために距離も置きました」
「……」
そこで会話が途切れ、お医者様が湊斗さんを呼んだ。
私にも一緒に来ますか?と聞いてくれたけど私は遠慮した。
また香澄の具合が良くなった頃にきますと、その時は帰宅した。
香澄は、その後も入退院を繰り返し、
湊斗さんの仕事の都合がつかないときは、
香澄の娘をうちでみるようになった。
うちの娘とも仲がいいし、一人でいるよりはずっといいと思ったのだ。
香澄の具合は、大きく良くなりはせず、私は第4子を妊娠した。
お腹の子が男の子でつけようとしている名前を教えたら、
香澄は、悪いけどもう(私に)会いたくないから来ないでほしいと言った。
全くの偶然だったけど夫のつけたその名前が、
男の子だったら湊斗さんと香澄が子供につけたい名前だったらしい。
そっとしておこうと思った私に湊斗さんは、香澄の容態をそっと教えてくれるようになった。
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