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エピローグ
ゲームディレクターの島崎来人は現在開発中のテレビゲーム、「ソードサーガ~聖剣と魔剣~」のシナリオについて、ライターの一人と熱心に打ち合わせをしていた。
熱心さのあまりせっかく注文したこの喫茶店特製のケーキにも手を付けていない。
企画書のコピーをテーブルにバサリと置く。
「タイトルは仮題のままソードサーガで決定な。聖剣と魔剣を付け加えるけど」
「これって島崎さんのアイデアでしたっけ」
「おうよ。俺、ガキの頃から絶対にこのタイトルにするって決めてたんだ」
「ガキの頃から? どういうことっスか?」
島崎自身も不思議そうに首を傾げ、窓の外に目を向けふと遠い目になる。懐かしそうなその眼差しはここではないどこかに向けられていた。
「ずっと昔から頭の中にあって、このゲームはソードサーガじゃなきゃいけない気がしてさ……。まあ、そんなことよりも」
書類の束からキャラクターデザインの一枚を抜き出す。そこには銀髪紅眼の黒魔法使いの美女が描かれていた。
ライターが溜め息を吐いて苦言を呈する。
「……島崎さん、俺はこのキャラデザ好きですけど、ちょっとノエラの露出度高すぎません? 自分の趣味反映させすぎですよ。子どもがプレイするんですよ。PTAとか敵に回したら怖いっスよ」
すると島崎はテーブルに握り締めた拳を押し付けた。
「クレームが怖くてゲームなんて作ってられるか! ノエラのハイレグには俺のゲームディレクター生命賭けてんだよ」
「ゲームディレクター生命って……。さすが島崎さん、二次元の女にも三次元の女にも見境がないって噂はマジでしたか」
ライターはもう何を言っても無駄だと判断したのだろう。溜め息を吐きつつシナリオの修正点について尋ねた。
「真エンディングのセリフはどう直しましょうか?」
「このノエラのセリフもうちょい多めにしてくれない? せっかく人気声優使うんだし、予算ならなんとかなるからさ」
「それ、島崎さんが聞きたいだけじゃないっスか……」
「どうせ聞くなら男より女の声だろ〜。まあ、でも、そこ以外はオッケー。多分これで通るから」
「了解っス。楽しみですねえ。俺、この展開好きなんスよ。特に真エンディングを迎える条件」
真エンディングでは倒したはずの魔王が復活し、勇者パーティーは再び討伐に向かうことになる。
その際、パーティーに必ず一人賢者がいなければ魔王城に入れない。しかも、その賢者は勇者以外でなければならないという条件だ。
また、賢者だけが復活した魔王を倒せる最終武器、魔剣を装備することができた。
なお、メンバーを賢者にするには限界までレベルを上げ、黒魔法、白魔法双方の呪文を完全習得させなければならない。
そのために賢者にするだけでも時間がかかり、プレイヤーにとってはなかなかの鬼畜仕様だった。
島崎はテーブルに頬杖をついた。
「……その方が俺的に熱いなって思ってさ」
勇者ではなくとも主人公になれると伝えたいのだと。
「熱いですよお。でも、俺が俺がの島崎さんぽくないっスね」
「阿呆。仕事とプライベートは別だっての」
「俺なら断然ノエラちゃんを賢者にしますね。島崎さんは誰選びます?」
「そうだなあ。俺は……」
ノエラか聖騎士ルーランだと答えようとして、なぜか回復役の白魔法使いユーリが脳裏に浮かぶ。レベルを九十九まで上げても攻撃力が弱くて使い辛いのに。
更になぜかゲーム中で一番苦手なキャラクターがその隣に並んだ。ゲーム内では一度しか登場しないモブなのに、頭が上がらない気がしてならないあのキャラだ。
我ながらわけがわからないと首を傾げつつも、心のままに口を開く。
「訂正、訂正! やっぱり俺が賢者にするなら……」
(完)
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