Rencontre avec un ange

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Rencontre avec un ange

夜風が心地良かった。公園のベンチに座りながら そうらしくも無いことを考えていた。 後ろからは、何やらカチャっと、いうおかしな 音が聞こえていた。 見えないよう、口元に笑みを浮かべたブロンドの ウルフカットのヘアをぼさぼさにし、前髪は目まで 覆い被せられている、そんなはたから見れば汚いと 映ってしまう男、名をリオネル•シモンといった。 しがない殺し屋だ。主に、要人、悪人、時折、子供の 殺害を依頼される時もある。その時は生きた心地は しない。寧ろ、罪悪感しか湧かなかった。まだこんな に幼い子供を殺すのかという葛藤があった。 それも今日で終わり。昨日、要人を殺そうとした際、 ボディーガードと目を合わせてしまった。 足がついた。この様子だと生きられはしない。 何故なら、自分の後ろには数分前からずっと銃を 突き付けられているから。 「言い残すことは」 「…ない。ないけどさ、」 …生きていられたのなら、両親を殺された復讐と やらをしてみたかったものだ。 遠くで銃声がなった。こんな最後になるくらい なら、まともな、普通の生き方をしてみたかった。 そうして、世界とおさらばした。 目を開けた。ここは、あの世なのだろうか。 だとしたら、待ち望んでいた者達と再会できる だろうか。と、周りを見渡しても、天国への階段 など見当たらない。地獄だとしても、荒野や、 拷問を受ける人々、悪魔など見当たらない。 この場所は、朽ち果てた廃墟だった。 何度も見た光景に、リオネルは何の感情も湧き あがらず、ただ、またか。と、だけ思った。この 現象を知っていた。 実のところ、リオネルは過去にタイムリープを 繰り返していた。しかし、前回も師を含む、 リオネルにとって大切な者達が殺されていき、 リオネルすらも殺された。 2回目は、師や、他の殺し屋達に裏切られて 孤独死。 3回目は、同僚が庇ってくれたが、彼と共に リオネルも死んだ。 4回目は、不思議なことに両親は生きていたが、 平和は続くわけなく、間も無くして死に、 リオネルも、体をバラバラにされて死んだ。 ○回目は…。 もう何度繰り返したかは不明だ。前回は、 最初から諦めた。何もかも諦めて、殺し屋を続けた。 疲労も溜まっていたのか、ミスをし、殺された。 …死んでもまた戻るから別に平気だった。 繰り返して、繰り返して。 リオネルの心は疲れて切ってしまっていた。何度 戻っても救われない両親。そして、後一歩のところ で掴めない犯人。 繰り返した中で、数回不規則な出来事が起こり、 リオネルは両親から愛されなかったことがある。 その場合は、彼らは健在していた。 それを見て、愛されない方が良いのかと、理解し、 愛されても、愛されなくても、仇を討つのを やめた。先ほど、死んだ時間軸の前にも。 けれど、やはり死ぬ前に走馬灯として脳内を 駆け巡ったのは、両親の姿だった。また繰り返す のだろう。けれど、その一回でも、意味はある。 リオネルは再び、仇を討つことにしたのである。 リオネルに残った手がかりは、犯人が、金持ちで あり、複数ではなく、単独犯。男、フランス在住、 だけだった。 ただ、子供がやったのか、大の大人がやったのかは 不明だ。関係ないと思うが。金持ちなんて飽きる ほどいる。特定できない。何回目かは忘れたが、 最後に重大な何かを手にした気がしたが、忘れて しまった。推測するに、もう何百回も繰り返して いる為に、記憶が欠如してしまったのだろう。 幾百ものループを繰り返し、脳が拒絶した。 情報が過多すぎて。無理もないが、そこは覚えて おくものだろうと自身に呆れた。何か記憶の欠片を 見つけようと少しの間、思考に浸かったが、結局、 何も頭には浮かばなかった。 ふと、自身の髪を見ると。紫黒色の髪になっていた。 いつも戻る度にこの髪を見る度に戻ったのだと再確認 させられた。今はもう見飽きたが。元々の地毛が この色だったが嫌いだった。嫌な記憶を思い出して しまうから。だから、あの未来では髪を染めていた。 今は出来ないだろう。派手な髪色にすると目立って しまうから。仕事に支障が出てしまう。 リオネルは、息を吐いた。腹が鳴った。と、 いっても今でも食欲はあまりなく、胃は小さいが 腹は減ってしまうものだ。冷蔵庫を見るが、 何もない。元々ここは事務所であまり居住しては いない。物も少ないのも頷けるが、この状況を何とか しなければいけない。記憶を辿り、当時も電話は 持っていたので、とある番号にかける。コールが 数回した後、声が聞こえた。 「もしもし」 「…もしもし」 「久しぶりだな、リオネル。何かあったか?」 「…手間をおかけいたしますが、こちらへ来る ことは出来ますか? それと、何か食べる 物を持ってきて下さい」 任務は恐らく無かったはずだ。まぁ、赴いていたと しても、一人で解決法を探すが。 リオネルの声音から察したのか、了承してくれた。 電話を切ると、一つ息を吐いた。 「はぁ…」 息を吐き、空腹を紛らわす為、煙草を咥え、 ライターの火を付けた。 「少しは備蓄したらどうだ」 銀の蓬髪の男が、紙袋を片手に訪れた。片目の 上眼瞼から、下眼瞼にかけて細長い傷があり、 その目は光が無い。頬の周りの薄い髭が生えて いる。年齢は、40代前半だろうか。 貫禄が滲み出ている。 「…マリユスさん。俺は元々食べない方なので 別に良いです」 マリユスと呼ばれた、リオネルの恩人で師は、 苦い笑いを向けた。別に良いと言っているが、 何もないから呼び出したのではないか。 「この茶菓子を食べられるか? それと、この茶も」 マリユスは、紙袋から洒落た箱を取り出し、 蓋を開けた。中には、クッキーやら、一口大の バームクーヘンやらが沢山入っていた。 クッキーは、頑張れば二個は食べられるかも しれない。アイスティーなのか、少しひんやりと した茶はそれでも香りを消すことはない。 良い香りだと、ここにきて初めてリオネルは リラックスをすることができた。 しかし、それもすぐに無くなる。マリユスは、 机にある資料を置いた。3、4枚の束になっている。 「お前に仕事だ。とある要人の御子息の護衛をして 欲しいと」 「…殺し屋なのに、護衛ですか?」 怪訝そうにリオネルはマリユスを見る。 何の感情もその瞳にも、顔にもない。 「ああ、大物故に断れなくてな。それに 俺の古い知り合いだったからな。出来るか?」 「…出来ますけど」 師の頼みは断れないものだ。報酬も中々に高い。 断る理由は無いに等しい。 「なら良かった。あと、数十分で来るぞ」 「…何で、もっと早く言ってくれなかった んですか。断ったとしても強制的にやらせる つもりでしたね」 「まぁ、許せ」 待っている間にぼりぼりと菓子を貪っていると 足音が鳴り響いた。 「こんにちは、あなたがリオネルさんですか?」 名を呼ばれた様なので、クッキーを口に挟みながら 顔を向けた。 自身を呼んだ男は、ブロンドの髪を、結った碧眼の 青年だった。片目は前髪で隠されているが、かなり 美しい容姿だ。マリユスはほんの僅かな間、 見惚れてしまっていたようだ。 「…そうだが、あんたがどっかの息子?」 「はい、僕の名はジル•リュウフワです」 ジルは、花が綻ぶように美しく笑った。 周りを魅了するというのはこれか。 フランス王家関係者だそうで、父方が血をついで いる。リオネルは見飽きていた。ただ、言いたい のは。 「…これ、断ったら駄目でしたね」 「だろ」 マリユスが肘でつついてくる。従って良かったと 今、振り返って安堵した。金持ちに逆らうのだけは 絶対に厭悪することだった。まぁ、殺されるくらい ならその前に殺して逃げるが。 「で、俺はジル…さんを守れば良いと?」 「はい、期限は1年でお願いします」 「…1年で良いのか?」 疑問を持ちながらもジルに問いかける。 今までに不規則なことは起きたので、確かめる ことを忘れてはいなかった。 「はい。殺し屋という仕事もありますし、 その時は護衛しなくても構いません。それに、 貴方はそれくらいの時でしか守ってはくれない でしょうから」 ジルの言い草に、リオネルは自身を舐めている かのように聞こえ、癇に障ったが、口にするのは やめておいた。どうせ、ここで吠えても相手には してもらえないだろう。 「…だが、お前も血を引き継いでいるとはいえ、 金持ちだろ。護衛術くらいは身に付けてるだろ」 「はい。フェンシング、弓道、ジークンドー、 サバットなどですね」 「…そりゃ頼り甲斐があることで」 自慢気に言うジルに嫌味も含めて、リオネルは 内心言葉を吐いた。 (クソ野郎が)
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