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「何やってんだ、始まるぞ」
柏木が怒鳴る。
「すいませんでした、トイレ我慢出来なくて」
「鈴木を見なかったか?」
「鈴木さんはスジに絡まれたようです」
「何、スジもんに絡まれた、トイレか」
佐伯はトイレに向かった。
「番号」
「一」
「二」
「三」
始まった。練習ではない。幸三は二番隊員である。中田が回れ右して駆け足行進で審査員の前で止まる。
「神奈川県横浜市南北区丸山町消防団、只今から小型ポンプ操法を開始します」
中田の声は練習時よりも高く清らかにグラウンドに轟いた。
「火点は前方の標的、水利はポンプ右側後方防火水そう、手びろめによる二重巻ホース一線延長」
隊員は基本姿勢で待機している。
「定位につけ」
指揮者が隊員の動きを監視している。隊員が定位置に着いた。
「操作始め」
隊員がホースを延長する。幸三は枕木取付け後、とび口方向に向きを変え、駆け足行進で発進し、とび口右側について、折りひざの姿勢になる。とび口柄中央部を左手に持ち、立ち上がると同時に左腋下に抱えた。延長ホースの左側に沿って最短距離で破壊地点に向かい、左手で柄の中央部を、右手で柄の後部を持ってとび口を構えた。自分でも完璧であると感じていた。
「おおっ、幸三、カッコイイ」
メイの甲高い声援。
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