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「どうした、幸三は?」
長男の幸太郎が幸三と入れ違いに入って来た。幸太郎は所帯を持ち近くのアパートで嫁と長男と暮らしている。
「幸三の馬鹿、時計屋継ぐって」
「ほんとか?」
「ああ、それから消防にも入るらしい」
幸三の性格をよく知っている幸太郎はそれもいいと思った。よく知っているのは性格だけではない、性癖もよく知っている。幸太郎と幸三は齢の差もあり同じ部屋だった。幸三が中学二年生の時に部屋でオナニーをしていた。そっと近付いて驚かした。しごくモノの下にオカズの本が置いてある。さっと取り上げてみて驚いた。男の裸体の専門誌である。それも厭らしく誘う目付きのモデルたち。
「お前、まさか?」
その日幸三は家出をした。死のうとも考えた。しかし死にきれずさまよい歩いていると幸太郎に後ろから抱き付かれた。
「幸三、このことはあんちゃんとお前のだけの秘密だ。あんちゃんの胸にしまっておく。治るとか治らないとかそんなことはどうでもいい。俺はお前のあんちゃんだからな」
幸太郎の説教に甘えて家に戻った。それからすぐに幸太郎は家を出てアパート暮らしを始めた。
「家を継ぐのはいいが消防は考えもんだな」
「でしょ、だから俺は止めろって言ったんだけどさ。おやじが可愛そうだからってガキみたいこと言ってやがる」
幸二の心配は消防団に入ってからの立場的なことに対し、幸太郎の心配は団員達と怪しい関係にならないか、その違いがある。
「俺から幸三に話してみるよ」
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