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幸三の転倒が原因で消防操法の全国大会への出場は割れるように音を立てて瓦解した。全国大会出場を豪語していた柏木は町内会のうるさ方に責め立てられるように団長の座を追われてしまった。そして次期団長に任命されたのが中田である。
「みなさん、先日の消防操法大会では私と幸三の失敗で散々な成績に終わりましたこと、お詫びいたします。ですが我々の活動はこの地域の安全、火事をいかに出さないか、また出た時には、いかに早く消火活動が出来るか、それが使命です。消防署と一体になり、有事の際には交通整理まで行わなけばなりません。そしてザキ商店街は狭くてポンプ車が通行出来ない場所も多々あります。小型ポンプの操法は待ったなしです。失敗した私がこんなことを言うのもおかしいですけど、地域を護るために一緒になって頑張りましょう。そして、幸三」
中田が幸三に振った。
「みなさんごめんなさい」
幸三は深く頭を下げた。
「新団長は俺を庇ってくれましたが、あれは俺の持病と言うか、高校の時に虐められて、耳を叩かれ平衡感覚に異常をきたしていました。よくあることなんです。そうと知りながら、花形である、とび口の担当になり今回の無様です。父親にどうしてもいい所を見せたくて耳のことはみなさんに黙っていました。俺が出なければ全国大会に行けたのに、本当に申し訳ありません」
幸三はまた深く頭を下げた。
「お前が転んだお陰で丸山町がまとまった。許してやる」
ベテランがヤジを飛ばすと会場が爆笑した。一同は柏木のワンマン体制に不満を持っていた。商店街からも支持が厚い中田新団長になりまさにまとまる様相を呈していた。
「みなさん、幸三には引き続き副団長をお願いしようと考えていますが、どうでしょうか?」
中田が一同に問い掛けると全員が隣の部屋に移ってしまった。
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