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副団長はBL
どこの町でも消防団員が不足してる。一昔前は義務みたいなもので、入団しないと仲間外れにされてしまう。一所帯に一人だけが参加してくれるだけでいい。長男だろうが次男だろうが誰かが入団してくれると親も地域で胸が張れる。しかし最近は地域ぐるみでの活動、いや隣近所の付き合いさえも消えかけている。隣に誰が住んでいるか分からない、そんなことが普通になって来た平成三年だった。
「お前消防に入ってくれないか?」
柳田幸三は柳田家の三男で長男次男は消防はおろか地域の活動には一切関心を持たず参加をしたことがない。
「俺が?兄貴たちは?」
「あいつ等は駄目だ、お前しかいない。何とか頼むよ。うちも地元で商売してるからな、会合で言われるんだ。辛いぞ~」
幸三の父幸三郎は上二人を諦めて幸三に手を合わせた。商売は親の代から継ぐ時計屋である。時計屋と言っても街の大きな洒落た時計屋じゃない。主に修理が専門で間口が一軒奥行一軒の作業場兼店先である。街の大きな時計屋から修理の下請け業で成り立っている。
「おやじ、そんなことよりこの店はどうすんの?そっちが先だよ。俺継いでもいいと思ってるんだ」
幸三は今年26歳になる。高卒で勤めていた運送屋がバブルが弾けて素っ飛んだ。無職になり父の手伝いをしているうちに面白くなってきた。
「そうか、そりゃいい、お前は器用だしすぐに覚えるさ。来年にでも1級技能士の試験に申し込もう。経験年数なんていくらでも誤魔化せるから問題ない。そうか母さん喜んでくれるぞ」
幸三郎は仏壇の妻に報告した。
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