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【蛹は、蝶の夢を見る。】④
かわって、章悟と悠斗。
ソファーに座りながら、バーボンを飲む二人。
「愛する人の所有物で、いたいのにいれない事は、辛かっただろうね。」
「章悟、俺ね。姉ちゃんの旦那さん、殺そうと本気で思ったんだよ。」
「許せなかった?」
「許せるわけないよ。あの人は、姉ちゃんにこう言ったんだ。子供は、養子だっていいじゃないか?無理に君が作る必要はないんだよ。それは、何だよ。酷くないか…。養子だってって何だよ。姉ちゃんは、あの人の子供が欲しかったんだよ。あの人の遺伝子と自分の遺伝子が入った子供を望んだんだよ。軽々しく傷つけた事をあの人は気づいてなかった。」
「養子だって…」
僕は、その言葉に涙が止まらなかった。
養子を待っている子供達にも失礼な言葉だ。
愛する人との子供を望む、真壁さんのお姉さんにも失礼な言葉だ。
僕が、もし淳にそれを言われたら殺すだろう
そんなに軽く考えられている事に、嘆き苦しむだろう。
「俺は、姉ちゃんの葬儀の後、あの人に言ったよ。姉ちゃんを化け物に変えたのはあんただって!!あんたの言葉が、姉ちゃんを追い詰めた。あんたの言葉が、姉ちゃんを苦しめた。そう言ってやったんだよ。何度も話し合いをして、養子にしようと言うならわかるけれど…。何の話し合いもしてないのに、あの人は養子にしようと言い放ったんだよ。俺は、気に入らなかった。あの人の姉ちゃんに対する言葉が気に入らなかった。だって、姉ちゃんは出来るかも知れないから治療をしなくてもやれる事はやりたいって。」
真壁さんの目から、大粒の涙が流れてくる。
「わかるよ、僕も…」
どちらか片方が悪いなんてあるはずがないんだよ。
軽はずみな言動で、追い詰めてきたのは相手だ。
なのに、こっちがキレたりヒステリックになれば、DVだ!モラハラだと騒ぎ立てる。
僕も、淳にそう言われた。
【章悟に出すだけ、勿体ない】
別れ話の前から、何度も言われた台詞。
僕は、怒りで淳を殴り付けた。
【お前、すぐDVするじゃん】
と言われた。
殴りたかったわけじゃない。
好きなんかじゃ足りないぐらい愛してる相手で、なのに…。
勿体ないって、言葉を言われた事が許せなかった。
お前には、その能力がないんだよって言われてるのをわかっていた。
街行く家族を見つめては、【俺の子供もあんな可愛いかな?】って笑った。
だから、気づいていた。
勿体ない=出来ない体。
苦しくて、痛くて、悲しくて、毎晩毎晩、声を殺して泣いた。
その気持ちが、いつの間にか弾けとんで…。
気づけば淳を殴り付けるようになった。
もう、その言葉を言って欲しくなかった。
「大丈夫?章悟。泣いてるよ」
真壁さんは、右手で僕の涙を拭ってくれた。
「化け物を作るのは、いつだって人だよ。僕だって、彼を殺す。もし、今、彼が目の前にお腹の大きな女の人と現れたら……間違いなく殺す」
真壁さんは、僕のメガネをはずした。
「その目は、たくさん傷ついたんだね」
僕の前髪を上げて、目を見つめてきた。
「僕に出すのは、勿体ないと別れを告げる一年前から言われていた。多分、物色していたんだと思うんだ。毎回言われたんだよ。僕を抱く度に…。あー。勿体ない。眠ってる彼を殺してしまおうとも思った。愛してるから、憎しみが込み上げてきた。毎日、苦しんだ結果。僕は、彼を殴るようになった。勿体ないって、もう言って欲しくなくて。その言葉を言われたら殴った。だけど、気づいてくれなくてDV男にされたんだ。僕は、悪い人間だろ?大多数の人は、僕が悪い奴だって言うよ。小説や漫画の主人公に僕がなれば、迷わず叩かれるよ。わかるでしょ?真壁さん」
「大多数がどう思っても、俺は章悟を悪い奴だって思わないよ。章悟は、自分の心を守るためにそうしたんだろ?だから、俺は悪い奴だって思わないよ」
真壁さんの言葉に、無言で涙が流れ続けた。
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