【蛹は、蝶の夢を見る。】⑤

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【蛹は、蝶の夢を見る。】⑤

かわって、南条と朝倉 barを出て、並んで歩く。 路地裏から出た瞬間、朝倉は固まる。 「殺したら、負けだよ」 朝倉は、右手で握り拳を作って震えてる。 南条は、両手でその手を包み込んだ。 朝倉の見つめる先に、男女のカップル。 女の人は、お腹をさすっている。 近づく二人 「でも、まさか妊娠してるなんて思わなかったよ」 目を伏せる朝倉、南条は男と目が合った。 「最近、吐き気がすごかったから、私も気づかなかった。もう、安定期だって。隆二。」 「嬉しいよ、私が父親なんて」 安定期と言う言葉に、朝倉はフラつく。 「大丈夫か?歩ける?」 「はい」 南条が、振り返る。 男は、女と話しながらもずっと朝倉を見ている。 南条は、タクシーを拾った。 「帰れる」 「1人でいたくない」 すがる手を握りしめていた。 「出して下さい」 タクシーが出る。 10分程、走った場所で朝倉が止めた。 「そこで、お願いします」 「はい」 南条が、支払って降りた。 「お金」 「いらないよ」 朝倉は、南条の手をひいた。 少し歩いたマンションに連れてきた。 5階を押した。 南条は、黙って手をひかれる。 ガチャガチャ 鍵を開けて、朝倉が南条を家に入れた。 「お邪魔します」 「どうぞ」 「ソファーに座ってて下さい。ウイスキーでもいいですか?」 「うん。ロックで」 「わかりました。」 朝倉は、家の鍵を閉めた。 キッチンで、ロックグラスに氷をいれて、ウイスキーを注いだ。 「これ、好きなんですよ」 冷蔵庫にあった、小さなキューブのチーズをお皿に盛って渡した。 「さっきの人が、泣いてた相手か?」 隣に座った朝倉に南条が言った。 滝のように、涙が流れてきた。 何も言わなくても、南条はその顔を見て気付いた。 「ごめん、余計な事を聞いた」 南条は、ロックグラスを軽く上に上げた。いただきますのつもりだった。 ウイスキーを飲み始めた。 「こたって呼ばれてたんです」 朝倉は、泣きながら話し出した。 南条は、相槌もうたずに無言で聞いた。 「一年前から、こたとしても意味ないよなって言われだしたんです。」 朝倉は、必死で涙がながれないようにする。 「気持ちよくても意味ないし。無意味だよなって言われたんです」 朝倉は、心臓の辺りを握りしめながら話す。 「僕は、体だけでも隆二と繋がっていたかったから。ごめんねっていつも謝った。子供を産めなくて作れなくてごめんねっていつも言った…。」 朝倉の目から涙が流れてくる。 止めれなかったようだった。 「隆二は、それにイラついて僕を痛めつけるんです。でも、それでもよかったんです。」 カランと氷が溶ける音がした。 「だんだんと隆二は、嫌な言葉を言うようになっていきました。こた、俺出来ちゃった婚がいいな。女の人って柔らかいって知ってる?こたは、俺専属の玩具。」 朝倉は、膝を抱える。 「やっぱりそうだったんですね。安定期って言ってたから。隆二が、半年前から、勿体ないからって言い出した。だから、やめよう。って。なのに、別れる二ヶ月前には、また僕を玩具にした。勿体ないって言ってたのに…。彼女が、体調が悪くなってたんだね」 朝倉の痛みが、南条の胸を突き刺す。 南条は、泣いていた。 兄以外の話では、泣かないと決めていたのに…。 「ごめんなさい、こんな話」 南条は、朝倉の手を握りしめた。 「南条さん」 朝倉は、驚いた顔をして南条を見る。 自分の為に、泣いてくれると思わなかった。 ピリリリー 朝倉のスマホが鳴る。 「でなよ」 南条に言われて、スマホを見つめる。 持ったまま固まった。 今日の朝、自分に別れを告げた隆二からの着信だった。 震えながら、スマホをとる。 「はい」 『こた、新しい男作ったの?早くないか?』 「友達だから」 『へぇー。何でさっき見なかったの?こっち』 「彼女といるのに、かけてくるなよ」 『さっき、別れたよ。なあ?聞こえてただろ?』 「よかった。望んでたんだから。よかったね」 『なあ?こっちこいよ。』 「何で?」 『抱かせろよ、こた』 「もう、いらないだろ?僕なんか」 涙がスッと止まった。 『これから、いるだろ?だって、ほら、出来ないから。さっ!わかるだろ?こた』 南条は、スマホから漏れる声にイライラしている。
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