【蛹は、蝶の夢を見る。】⑥

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【蛹は、蝶の夢を見る。】⑥

「いつまで、喋ってんの?小太郎」 南条は、わざと電話の主を怒らせようとする。 『こた、さっきのやつといんのかよ?』 「う、うん」 『早く来いよ。こたは、俺の専用だろ』 「いけないよ」 『ふざけんな、早くこい』 「ダメだよ。南条さん」 「小太郎、電話長過ぎ」 南条は、わざと小太郎のシャツのボタンを外す。 『何してんだよ。こた』 「南条さん、ダメだって」 「小太郎、集中して」 『こた、お前何考えてんだよ』 その言葉に、南条がスマホを取った。 「南条さん」 「さっきから、俺達の邪魔しないでくれるかな?小太郎いらないって言ったくせに、調子にのってんじゃねーよ。」 南条は、わざと切らずにソファーの下に落とした。 「南条さん」 「衛だから」 「衛……。」 「小太郎、俺が幸せにしてやるから」 南条は、わざとらしくチュッチュッと音を立てながら小太郎にキスをする。 「ハァー、んんっっ」 「小太郎、可愛い」 南条は、小太郎の首筋にキスをする。 「衛」 「これから、小太郎は俺のだ。」 南条は、小太郎と肌を重ねる。 「ハァー、ハァー」 「凄いな、小太郎。ヤバイわ」 南条は、小太郎の髪を撫でる。 「スマホ」 そう言われて、南条が拾い上げた。 「切れてる」 「だろーな、ごめんな。無理矢理したな、強姦だな」 朝倉は、首を横にふった。 「無理矢理じゃない。嬉しかったから」 朝倉は、南条が手を握りしめた、あの瞬間から本当は、心臓がドキドキしていた。 「小太郎にするのは、勿体なくない。俺は、ずっと繋がっていたかったよ。」 南条は、小太郎の髪を撫でる。 「僕、隆二しかしらないから下手くそだったでしょ。ごめんね」 「謝るな。スゲー、よかった。俺から放れられないようにしてやるから、さっきの奴は忘れろよ。」 「南条さん」 「だから、衛だよ」 「衛、でも、僕達。出会って一日目だよ」 「そんなの関係あるか?」 南条は、朝倉を抱き締めた。 「どれだけ一緒にいたって恋に落ちない事だってある。俺は、小太郎に一瞬で恋に落ちた。それって素敵な事だろ?」 南条の話し方を聞いて朝倉は本当に恋に落ちたんだと感じていた。 南条は、出会った時よりも言葉に感情が伴っていた。 「もう、隆二の玩具に戻るのは嫌」 「小太郎は、それだけでいいんだよ。好きとかじゃなくていいんだよ。」 南条に、そう言われてホッとしていた。 好きになってくれと言われるよりよかった。 ただ、隆二の元に行きたくない。 それだけでいいのなら、南条に甘えてみたいと思った。 「それでいいなら、衛の傍にいさせて」 「いいよ。俺と一緒にいよう。」 まだ、人を好きになるのが怖い。 南条に、いらないと言われたら… そう思うと、体は奪われても心までは奪われたくなかった。 「衛、僕は子供は産めないよ」 「そんな事、気にしてないけど。」 南条は、朝倉から離れて、氷が溶けたウィスキーを飲みながら笑った。 優しい笑顔だ。 「欲しいって思った事は?」 「欲しいなら、男に手なんか出さないよ。俺は、好きになった人が好きだ。だから、その人が抱えてる闇も光も、全部全部好きだ。」 そう言って、朝倉をジッと見つめる目に、心臓がドキリとする。 「凄いね。衛は、ちゃんとしてる」 「当たり前だろ?いい加減な気持ちで、相手に手を出すわけないだろ?それに、体から始めた事なんて小太郎が初めてだよ。でも、さっきの電話の相手の声聞いてたら止められなかった。小太郎を傷つけられたくなかった。だから、時間なんかぶっ飛んで。押し倒してた。ごめん」 照れくさそうに俯いた南条を抱き締めていた。 「ううん、いいんだよ。僕もそうされたかった。それが、衛でよかった。1人でいたくなかった。」 あの瞬間を見た時から、誰かに抱き締められたかった。 それが、南条でよかったと朝倉は心底そう思った。 南条も朝倉を抱き締め返す。 二人は、互いの温もりを確認するようにきつく抱き締め合う。
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