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【蛹は、蝶の夢を見る。】⑦
画面が、移り変わって春見章悟と真壁悠斗。二人で、向き合ってソファーに座る。
真壁は、春見の涙を拭った。
「暴力は、反対だって言われても僕には自分を守る術が、それしか見つけられなかった。」
傷ついた剥き出しの心を守るものが、暴力しか思い浮かばなかった。
春見は淳が投げてくる言葉に追い詰められていた。
「わかるよ、章悟。仕方なかったんだよ。」
「僕は、手を挙げる奴は最低だって思っていたんだ。でも、自分自身が手を挙げた時に気付いたんだ。最低な奴ばかりじゃないんだって…。僕はもう、限界だった。そんな追い詰められた頭で考えれたのが、彼を殴る事だった。」
真壁は、春見の手を握りしめる。
「章悟、自分を責めなくていいんだよ」
春見は、首を横にふる。
「明日は、優しくできる。きっと出来る。そう信じて、彼に会うのに…。僕の体を散々弄んで、最後にガムでも吐き捨てるように言うんだよ。あー、勿体ない。お前みたいな不細工と遊んでやってるの感謝しろってね」
涙を止める方法が見つけられない程に、溢れてくる。
真壁は、胸を突き刺す痛みを覚えた。
姉も、春見と同じだったのではないか?
「章悟にしたって、何もならねーのに、何でしなきゃなんないんだよ。お前が、1人でやれよ。そう言われて、僕は言いなりになるしかなかった。僕だけが、彼を欲しがった。そして、彼は1人で頑張ってる僕を見ながら嘲笑いを繰り返した。蔑んだ目で、僕を見つめて、章悟は気持ち悪いよなって笑った。初めて、殺意を覚えた瞬間だった。」
真壁は、涙を流しながらジッと春見を見つめていた。
何もかける言葉が見つからなかった。
「子供を作れない僕は、ただの使い捨ての玩具なんだと思い知った。飽きて捨てられるか、壊れて捨てられるだけ。そこに、たいした差なんてなくて。彼にとって僕の心なんて、取るに足らないもので。嫌だとかそんな事を思う権利も尊厳もなくて。彼にとって、僕は人ではないのを感じた。そうだ、体だけでも繋ぎ止めておこう。心なんて捨ててしまえ。そうして、肌を重ねれば重ねる程に、僕は人ではなくなっていった」
真壁は、春見と姉の姿が重なって見える。
【悠斗、私はもう人ではないの】
死ぬのを決めていた姉が、真壁を見つめて泣きながらそう言ったのを思い出した。
春見は、死ぬのではないだろうか?
恐ろしくなった真壁は、春見を抱き寄せていた。
「真壁さん」
「章悟の全ては、俺にとって価値があるものだよ」
出会って数時間で、恋に落ちた。
そんなのは、ないと言われたって構わない。
だって、どうしようもないぐらい春見章悟を失いたくない気持ちは本当だった。
それが、嘘だと言われたら返す言葉がない。
それでも、温もりを引き寄せて抱き締めたかった。
春見も、それに答えてくれるように腕を回してきた。
「僕は、人でいれる?」
その言葉に、心臓が張り裂ける程に、痛みを感じた。
「章悟は、人だよ。」
当たり前だろ?って言いたかったけれどやめた。
その当たり前を、春見は握りつぶされたのだ。
だから、俺に人でいれるのか?と聞いたのだ。
こんなにも、春見を傷つけたそいつを真壁は許せなかった。
そして、そいつがまだ春見の心を支配してる事もまた許せなかった。
力ずくで、春見の心を奪いたくなかった。
でも、そいつからは引き離したかった。
そんな事を考えると、春見を抱き締める力が強くなり涙が流れるのだ。
「ごめん」
「ううん、もっと強く抱き締められたって僕は折れないよ」
「ダメだよ。章悟」
ワレモノを扱うように優しくしたい。
春見の心も体も、優しくしてあげたい。
もう、これ以上心を壊されたくない。
春見は、真壁の優しい温もりに久しぶりの心地よさに包まれて眠ってしまった。
真壁は、抱き締めてる春見が眠ったのに気付いて横にしてあげる。
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