【蛹は、蝶の夢を見る。】⑭

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【蛹は、蝶の夢を見る。】⑭

場面が、切り替わって章吾と悠斗 階段から出て歩き出す。 「大丈夫だけど、急ごう」 「うん」 早足で、悠斗の家にやってきた。 「はぁ、はぁ。よかった」 章吾のホッとした顔を見て笑っていた。 「お茶いれるよ」 「冷たいのがいい」 「麦茶、いれるよ」 悠斗は、麦茶を入れて渡す。 「悠斗が、来なかったらされてた。」 「姉ちゃんの声がして、気づいたら走ってたんだ。」 悠斗は、章吾の手を引いてソファーに座らせた。 「ありがとう、怖かった」 抱き締められる。 悠斗も強く抱き締める。 章吾といれば、何もいらないと思った。 「やっぱり、淳にとって僕なんかどうでもよかったんだ。僕の気持ちなんかどうでもよかったんだ。自分が気持ちよくなる為の僕は道具なんだよ。悠斗」 俺は、章吾を黙って抱き締めた。 「悠斗」  「そんなやつ捨ててしまえよ。俺が、一生章吾の傍にいるから」 章吾は、泣きながら悠斗にしがみついた。 このまま、悠斗と生きていこう。 好きになれるかなれないなど、そんなのは、今必要な答えではないと思った。 悠斗と生きていきたい! そう思っているだけで、十分だった。 章吾は、悠斗から離れて、黒縁の眼鏡を外した。 「章吾?」 必要ないものは、捨てよう。 髪の毛を、グチャグチャにする。 淳が作り上げた、僕などいらないのだ。 「章吾は、本当に蝶だね」 悠斗は、僕の両頬を両手で触って言った。 「僕は、そんな綺麗なものではないよ。」 「綺麗だよ、凄く綺麗だよ。」 「悠斗、嬉しいよ」 悠斗は、笑いかけてくる。 「章吾、ゆっくり俺を好きになって」 「悠斗、次の色は、悠斗がつけてくれない?」 僕は、自分でオリジナルの色をつけて飛び立てないんだ。 「章吾が、望むなら何だってする」 「でも、僕は子供は望めない。」 「子供が欲しいなど思っていないよ。僕は、章吾と二人で、生きていきたい。」 「悠斗、捨てられるのは怖いから」 「わかってるよ。だから、章吾はゆっくりゆっくり進んでくれていいから…。いつか、俺を好きになってくれるだけでいいから」 約束なんて、ちゃんと出来なくても許してもらえると思った。 僅か、1日で人に惹かれる日がくるなどと思っていなかった。 たった、数秒で惹かれ合うこともある。 淳に作られた僕を、好きになってくれる人がいるなんて思わなかった。 「悠斗と前を向いていきたい。」 「嬉しいよ、章吾」 悠斗は、章吾を引き寄せて抱き締める。 もう、章吾は悠斗だけの蝶なのだ。 そして、悠斗は章吾だけの花なのだ。 二つを引き離す事など、出来ないのだ。 悠斗は、章吾に優しくキスをする。 「もっとして、悠斗」 求められるままに、悠斗は章吾の服を脱がした。 首に、何かが擦れた痕がついている。 それを舌で、舐める。 「んんっ。悠斗」 可愛らしい章吾の姿に止められなくなる。 姉にも見せてやりたいと思った。 俺は、今幸せを掴んだのだと姉に見せてあげたかった。 ゆっくり丁寧に時間をかけて、章吾と肌を重ねた。 「はぁ、はぁ。悠斗、ありがとう」 「やりすぎたな」 息をきらす章吾を見ながら、頭を撫でている。 「ううん、悠斗が優しくて幸せだった」 「よかった」   悠斗は、ニッコリと章吾に微笑んだ。 「蛹は、蝶になれたんだよ。」  章吾は、悠斗の髪を撫でながら言った。 「なれたよ、章吾」 何かに導かれるように惹かれた糸は、見つけた瞬間から濃い色彩を放った。 それは、誰にも切れない程に強固に絡み付いた。 章吾は、悠斗しか蜜をもらう事はないし、悠斗もまた章吾以外の誰かに蜜をあげるつもりもなかった。 ゆっくり、ゆっくり、丁寧に章吾の羽根を塗ってあげたかった。 「愛してるよ、章吾」 「傍にいてね、悠斗」 二人は、ゆっくりとキスを交わした。
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