【心だけが繋がらない】②

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【心だけが繋がらない】②

さりげなく手を掴んでくれる。 「なぁー。冬」 「なに?」 「僕の事好き?」 「そやな!友達として好きやで」 「そやなくて、僕といて苦しいとか悲しいとか愛しいとか」 「ない!!」 「15年も抱き合ってんのに?」 「飽きはせんよ!夏とすんの気持ちええし」 「せやな」 心だけ、ずっと音信不通だ。 一緒におったら、楽。 何も言わなくてもわかってくれる。 「ここ、評価高いねん」 「行こや」 冬は、気を遣って店に入ると手を離す。 何でって? 世の中の大多数は、そういう人が気持ち悪いのだ。 だから、僕達は手を繋がなかったりする。 「いらっしゃいませ」 「二名です」 「こちらに、どうぞ」 向かい合って座る。 「これにしようかな?」 「たっぷりチーズのパスタか!ええやん。僕もそれにする」 冬は、呼び出しボタンを押してパスタを注文する。 「スゲー」 パスタに、演出でトロっとチーズを目の前で落とされて渡された。 「いただきます」 「フー、フー。めっちゃうまいで」 「ほんまやな」 冬と食べるご飯は、美味しい。 食べ終わった、お皿が下げられてコーヒーがやってきた。 「よかったわ!夏の顔色もどって」 「そんな、悪かった?」  「めちゃめちゃ、悪かったで」 ちゃんと、僕を見てくれてる。 それやのに、何で この胸は、ピクリとも動かないのだろうか? 冬が、コーヒーを飲み始める。 夏は、それを見つめながら思った。 もし、冬が好きな人が出来たから別れようと言ったとしても! どうぞって言える自分が不思議だった。 冬との関係が終わっても、悲しいって想像が出来なかった。 「ほな、でよか」 「うん」 冬は、スマートにお金を払って出ていった。 また、手を繋いでくれる。 これに、たいした意味はない。 冬も、好きな人が目の前でいなくなった。 僕と同じだった。 だから、手を握ってる。 離した事で、死んだらと思うとお互いに、気分がよくないのだ。 「冬」 「なに?」 「また、見てもうた。春の夢」 「そうか。しんどいな」 「うん、しんどい」 「あの日に、戻って腕掴んで好きやって言えたらええのにな」 「うん」 小さな田舎町、道行く人は、僕と冬をジロジロ見つめる。 冬は、ギュッと強く手を握ってくれる。 こんな眼差しに、負ける事はなかった。 冬といると何にも気にならなかった。 「夏」 「うん?」 「明日は、会えへん」 僕は、少し考えた。 「あっ、月命日」 「ごめん。明日は、秋にあげたいねん。」 「勿論、わかってるで!」 「その代わり、うちくるか?」 「泊まってええの?」 「ええよ」 冬は、そう言って笑ってくれる。 ドキドキしない。 チクチクしない。 それでも、この手を離さない理由はなに? それでも、一緒にいたい理由はなに? 僕は、あの日から電車に乗れなくて…。 基本的に、冬が車で色んな所に連れてってくれる。 さっきの場所から、冬の家は近かった。 マンションに到着した。 「次、住むの何階にするん?」 鍵を開けた冬に、尋ねた。 「二階ぐらいが、ええか?」 「いや、四階ぐらいがって!うそうそ。虫ぐらい、虫除けしとったらええな!」 「ごめん。」 「いや、ええねん。」 「ごめん。」 「謝らんでって」 僕は、玄関の鍵を閉めた。 「お邪魔します。」 何もない家。 「ワイン飲む?まだ、早い?シャワーする?」 「うん、お風呂入りたい」 「わかった。沸かすわ」 何で、こんな何もない家なんやろう…。 冬の家を見る度に、寂しい家やなって思う。 僕は、ソファーに腰かける。 冬は、もっと幸せになれるよ。 もっと、幸せになっていいんよ。 きっと、あの事なかったら幸せになってて…。 家も、もっと荷物があって…。 もっと、明るい色に包まれて…。
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