8人が本棚に入れています
本棚に追加
【心だけが繋がらない】②
さりげなく手を掴んでくれる。
「なぁー。冬」
「なに?」
「僕の事好き?」
「そやな!友達として好きやで」
「そやなくて、僕といて苦しいとか悲しいとか愛しいとか」
「ない!!」
「15年も抱き合ってんのに?」
「飽きはせんよ!夏とすんの気持ちええし」
「せやな」
心だけ、ずっと音信不通だ。
一緒におったら、楽。
何も言わなくてもわかってくれる。
「ここ、評価高いねん」
「行こや」
冬は、気を遣って店に入ると手を離す。
何でって?
世の中の大多数は、そういう人が気持ち悪いのだ。
だから、僕達は手を繋がなかったりする。
「いらっしゃいませ」
「二名です」
「こちらに、どうぞ」
向かい合って座る。
「これにしようかな?」
「たっぷりチーズのパスタか!ええやん。僕もそれにする」
冬は、呼び出しボタンを押してパスタを注文する。
「スゲー」
パスタに、演出でトロっとチーズを目の前で落とされて渡された。
「いただきます」
「フー、フー。めっちゃうまいで」
「ほんまやな」
冬と食べるご飯は、美味しい。
食べ終わった、お皿が下げられてコーヒーがやってきた。
「よかったわ!夏の顔色もどって」
「そんな、悪かった?」
「めちゃめちゃ、悪かったで」
ちゃんと、僕を見てくれてる。
それやのに、何で
この胸は、ピクリとも動かないのだろうか?
冬が、コーヒーを飲み始める。
夏は、それを見つめながら思った。
もし、冬が好きな人が出来たから別れようと言ったとしても!
どうぞって言える自分が不思議だった。
冬との関係が終わっても、悲しいって想像が出来なかった。
「ほな、でよか」
「うん」
冬は、スマートにお金を払って出ていった。
また、手を繋いでくれる。
これに、たいした意味はない。
冬も、好きな人が目の前でいなくなった。
僕と同じだった。
だから、手を握ってる。
離した事で、死んだらと思うとお互いに、気分がよくないのだ。
「冬」
「なに?」
「また、見てもうた。春の夢」
「そうか。しんどいな」
「うん、しんどい」
「あの日に、戻って腕掴んで好きやって言えたらええのにな」
「うん」
小さな田舎町、道行く人は、僕と冬をジロジロ見つめる。
冬は、ギュッと強く手を握ってくれる。
こんな眼差しに、負ける事はなかった。
冬といると何にも気にならなかった。
「夏」
「うん?」
「明日は、会えへん」
僕は、少し考えた。
「あっ、月命日」
「ごめん。明日は、秋にあげたいねん。」
「勿論、わかってるで!」
「その代わり、うちくるか?」
「泊まってええの?」
「ええよ」
冬は、そう言って笑ってくれる。
ドキドキしない。
チクチクしない。
それでも、この手を離さない理由はなに?
それでも、一緒にいたい理由はなに?
僕は、あの日から電車に乗れなくて…。
基本的に、冬が車で色んな所に連れてってくれる。
さっきの場所から、冬の家は近かった。
マンションに到着した。
「次、住むの何階にするん?」
鍵を開けた冬に、尋ねた。
「二階ぐらいが、ええか?」
「いや、四階ぐらいがって!うそうそ。虫ぐらい、虫除けしとったらええな!」
「ごめん。」
「いや、ええねん。」
「ごめん。」
「謝らんでって」
僕は、玄関の鍵を閉めた。
「お邪魔します。」
何もない家。
「ワイン飲む?まだ、早い?シャワーする?」
「うん、お風呂入りたい」
「わかった。沸かすわ」
何で、こんな何もない家なんやろう…。
冬の家を見る度に、寂しい家やなって思う。
僕は、ソファーに腰かける。
冬は、もっと幸せになれるよ。
もっと、幸せになっていいんよ。
きっと、あの事なかったら幸せになってて…。
家も、もっと荷物があって…。
もっと、明るい色に包まれて…。
最初のコメントを投稿しよう!