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【心だけが繋がらない】④
「トイレ行ってええ?」
「ええよ」
さっきから、秋に頬を撫でられているだけで、身体が変になりそうだった。
俺は、トイレに行く。
辛すぎて、消えてしまいたい。
こんな人生、嫌だ。
俺は、精神を整えてトイレから出る。
「秋、どこ行ったん?」
出てきたら、秋がおらんかった。
「秋」
俺は、大きな声で名前を呼んだ。
「ここやで、冬」
「何してるん?」
「こっから、ちょっと向こう覗いたら公園みれて、今子連れがおるねん。ホンで、この時間に志保が通るねん。」
「家、近かったん?」
「引っ越してきたんやで!あいつと!」
「えっ?」
俺は、ベランダにいる秋に近づいていく。
「俺もうアカンわ。もう、限界やねん。志保のお腹が大きなってあいつと笑ってんの見るだけで、無理やわ」
「秋、俺がおるやん」
嫌な予感がして、さらに近づく。
「冬がおって何になるん?付き合うとか出来へんやん。セックスも出来へんやん。それに、出来ても冬は、俺の子供産まれへんやん」
「落ち着け。落ち着けや。はやまるなよ。死んだら終わりやから!」
俺は、ベランダに近づいた。
「くるな!きたら、飛び降りるで!」
「わかった。こっから、いかん。やけど、頼むわ。俺と生きていこう」
「冬が、女やったら考えたったわ」
「秋、ホンマにやめてくれ」
涙が止まらなくなる。
「冬が、女やったらよかったのに。何で、男なん?男は、好きになった所で子供無理やん。」
「秋、やめてや」
「もう、限界やねん。生きてる事に価値を見いだせへんねん」
「秋、頼むから」
「冬、幸せになりや」
「秋、ホンマにやめて」
「親友になれてよかった」
「秋、ホンマにアカンから」
「冬が結婚とか彼女とか作ったら絶望的に辛いだけやし」
「そんなんない。俺は、秋を裏切らんから」
「ありがとう、冬。嘘でも嬉しいで!大好きな親友やで!いつかまた会おうな」
「待って、秋」
秋の飛び降りるのを止めようと急いだけど、間に合わんかった。
「秋ーーー」
「キャーー」
「ヤァーーー」
叫び声が、聞こえる。
低いから、生きてる。
絶対、生きてる。
.
.
.
.
.
「冬、大丈夫?」
「夏」
俺は、夏を抱き締めていた。
「汗凄いし、息荒いし、怖かったやん。また、秋さんの夢見たん」
「うん。明日やから」
「大丈夫。僕がいるから」
夏に抱き締められると安心する。
なのに、何で?
夏を好きになれないんだろうか…
夏を好きになれたら、こんなにも幸せな事はないんじゃないかと思う。
「お風呂、スイッチ押すよ」
「うん」
俺は、起き上がってお風呂のスイッチを押した。
「ねえー。冬」
「うん?」
「アパートにしない?マンションやなくて」
「何で?」
「お隣も少なくてええやん。」
「そうやな!俺は、かまへんで」
「階数も少ないやろ?二階ぐらいやったら、大丈夫?」
「うん、大丈夫やで」
会社は、二階建てだった。
本当は、ビルの中にある職場に就職が決まっていた。
給料も今よりめっちゃよくて…。
なのに、初出勤の日。
その階についた瞬間。
俺は、眩暈がして倒れた。
俺は、秋を掴まえられなかったあの日から…。
高所恐怖症になった。
それも、度が越す程だった。
母親が、心配してカウンセリングや心療内科に通わせたけれど…。
何にも変わらなかった。
父親からは、薬漬けの人生か、苦しくても耐えて生きる人生かの二択を迫られていた。
そんな日々の中で、俺は夏に出会った。
「冬、眉間に皺よってる」
抱き締められた温もりに安心する。
「ホンマ?」
「ホンマ!」
そう言って、おでこを擦られた。
「夏、好きやで」
「LIKEってやつやろ?昔、流行ったよな?LIKEかLOVEかとかって」
「ああ、高校の時な」
「冬は、なんて答えたん?秋さんに…。」
「LIKEってゆったよ。夏は?」
「僕も、LIKEってゆったよ」
♪お風呂が沸きました♪
「沸いたみたいやで」
「ホンマやね」
俺は、夏の手を掴んで風呂場に連れていく。
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