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【心だけが繋がらない】⑤
冬に手を引っ張られて、風呂場にやってきた。
スルスルと服を脱がされる。
「ちょっと、腹出てきたんちゃう?」
「ジム行かなアカンかな?」
「一緒に住んだら鍛えよか」
「うん」
僕は、冬の手が好き。
冬が、触れるだけでそこが膨らんでくる。
「変態やな」
「触るからやん」
「ごめん」
冬は、風呂場に僕を入れると洗面器でお湯をすくって身体を流してくれた。
冬も、同じ事をする。
「二人で入ると狭いよな!やっぱり、男同士は」
「それがええんちゃうん?女と違ってええやん。」
冬は、僕を抱き締めてくれる。
ピアノでも奏でてくれそうな綺麗な指先が大好き。
胸さえ、ときめいてくれたら…。
幸せな道にいけるのにな。
「頭洗ったろか?」
「うん。冬が、頭洗うん好き」
「うん」
冬は、僕を風呂の椅子に座らせる。
冬が、頭を優しく洗ってくれる。
それだけで、身体中が熱をもつ。
「変態やな」
「あっ!見んなよ」
「夏、俺達には邪魔してるもんがあるな」
「別に、ないよ」
「目瞑って、流すから」
「うん」
シャワーで優しく流してくれる。
冬は、リンスをつけてくれる。
「冬」
「どうした?」
「僕、冬を愛されへん。ごめんね。」
「何を今さらゆうてんねん!俺達は、最初からそうやったやんか」
「わかってんねんけど…。何か急にそう思ってん。」
「悪い思ったん?そんなんなってるから」
冬は、笑いながらリンスを流してくれる。
「別に、抱かれんのは僕やし」
「ハハハ、そやな!」
ボディソープを泡立ててる。
冬は、それを柔らかくフワフワの泡にしてくれるから好きだ。
気持ちよく足から、優しく滑らせてくれる。
それが、大好きだ!
冬を愛する事が、出来たら幸せなのが一番わかってる。
なのに、それが出来ない。
それだけが、出来ない。
「流すで」
「うん」
冬は、優しくシャワーで流してくれる。
「僕も洗ってあげるで!」
「ありがとう」
僕は、冬の頭を洗ってあげる。
「夏が、洗ってくれるん好きやわ!」
「ホンマに!!嬉しいわ」
「うん」
泡が目に入らないように流す。
「夏、俺。高層階とかに住まれんくてごめんな」
「ううん」
優しくリンスをつける。
「幸せってなんなんやろうな」
「わからんね」
僕は、鏡越しに冬を見つめている。
リンスを流す。
ボディーソープをフワフワに泡立てて、足先から優しく丁寧に洗う。
「会社のせりちゃんがな」
「うん」
「不倫しとるんやって」
「へぇー。」
「7つも下の人らしいわ」
「へぇー。」
「旦那も子供もおって、何が不満なんやろな?俺には、ようわからんわ」
せりちゃんとは、冬の同僚の女の子だ。
芹川さん。
去年、冬と僕が歩いてる所を見られた。
「不思議やね」
「好きな人が、生きとるだけでええのにな!贅沢やな!世の中の人は、みんな。愛する人が生きて笑っとるだけでええやん。嫌なら、別れたらええのにな」
「芹川さんは、別れないん?」
「なんや、収入がどうたらゆうてたで!息子に、金の苦労かけたくないんやって!愛なんか一ミリもないらしいで!旦那さんは、せりちゃんの事、愛してるらしいわ!心配してこられんのも、ウザいんやって。なんや、二人目も欲しいらしくて、それもウザいんやって!金と愛は、比例せんのやってゆわれたわ!」
「なんか、複雑やね。って事は、旦那さんとは絶対別れへんって事?」
「絶対別れへんらしいで!安定しとる仕事やし、子供がおらんかったとしても、絶対別れへんかったゆうてたわ!せやけど、愛はないらしいわ。まあ、エッチしてるからええでしょってゆわれたんやけどな。何も答えられんかったわ。なんか、旦那さん。可哀想やわ」
僕は、ボディーソープを流す。
「ほんまやね。なんか、旦那さんと子供が可哀相やね」
「そやろ!なんか、ようわからんよな。俺には、わからんわ」
「僕も、わからへん。金だけとか無理やもん」
「そうやんな」
冬は、僕の言葉に抱き締めてくれる。
冬に抱き締められるだけで、嬉しくて堪らない。
お風呂から上がって、僕と冬は服を着た。
ご飯を食べて、お酒を飲んで、歯磨きをして、相変わらず抱かれた。
気づけば、眠っていた。
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