【心だけが繋がらない】⑦

1/1
前へ
/137ページ
次へ

【心だけが繋がらない】⑦

改札を抜けて、ホームに佇む冬。 また、この日が来たのかと思っていた。 許されない日を幾度と重ねても、秋のお墓以外には、行くのを許されなかった。 お葬式も出られなかった。 【殺してやる!】あの日、秋の母親に見つめられた憎悪の眼差しを今でもハッキリ覚えている。 電車に乗って、7駅揺られる。 改札を抜けて、駅前の花屋さんで毎年同じ花束を作って貰う。 赤、青、黄色、白、緑、5色入った花束だ。 駅前で、バスに乗る冬。 バスで、山の方にあるお墓に連れていってもらう。 バスが、目的地について歩く冬。 「また、あんたか?」 お墓につくと、その人はいつもいる。 「お花、入れる場所ないやん。」 「そうやね」 毎年、自分より先にその人は花を供えてる。 「許される思ってんの?それとも、許されたい思ってんの?」 冬の言葉に、その人は冬を睨み付ける。 「私かって、あの日巻き添えになって死んでたかもしれんのよ。冬君は、何で心配してくれんのよ!」 また、泣かした。 秋の元彼女の志保を…。 「そうやったな!ごめん」 冬は、花束をお墓に供えて手を合わす。 「あの後、私。流産しかけたんよ!秋のせいで、人生台無しになったんよ。あの人とも別れることなったんよ。秋は、私を連れてくつもりやったんよ。」 「それは、ちゃうと思うで!うまくは言われへんけど、志保ちゃんを連れて行こうとは思ってなかった思うよ」 「冬君が、私を好きになってくれへんのが全部悪かったんやんか」 「何をゆうてんの?」 「全部、冬君のせいでこうなったんやんか!私は、冬君がずっとずっと好きやったんよ。中学からずっと…。ほんで、秋に協力してもらっとるうちに、秋に告白されて…。それで、付き合ったんよ」 「なに、それ?」 冬は、話の内容がついていかなくて頭の中がこんがらがる。 「今からかて遅くないやん」 そう言われて、冬はキスをされる。 「やめろや」 志保を軽く押した。 「また、おりたらどうするんよ」 妊婦だと知った。 「再婚したん?」 「してないよ。彼氏の子やから」 冬は、頭が真っ白だった。 「冬君、今からでも私と赤ちゃん育ててよ。責任とってよ」 そう言われて、またキスをされる。 妊婦だと言われて、手荒な真似が出来なかった。 それをわかっている志保は、冬に深くキスをしだす。 冬の目から、涙が(こぼ)れ落ちていく。 直立で立っている冬。 その手を胸にもっていく志保 唇を離された。 「ごめん。俺は…」 「一回抱いて」 「えっ?」 「私としてよ」 「それは…。」 「妊婦でも、できるんよ!やって」 冬は、手を握りしめて力強く言った。 「俺は、ゲイだから出来へん」 その言葉に、志保は笑った。 「だから、なに?」 だからなに?と言われたら、何と答えたらいいのだろうか? 「ここで、私とするか!別の場所でするか、どっちがいい?」 勿論、秋の墓の前でするわけにはいかない。 「別の場所」 何で、この女の言いなりになっているのだろうか…。 罪悪感が、冬の心を狂わせている。 「俺、出来るかわからんよ」 その言葉を言っても、志保は気にしない素振りで冬を引っ張っていく。 「乗って」 満面の笑みで車を開けられた。 冬は、車に乗り込んだ。 「あの時の子供ね。もうすぐ、二十歳になるんよ。」 「そっか」 「冬は、私に興味ないん」 「あっ、ごめん。」 「ほんなら、この人の幸せ失っていいんやね」 スマホの画面を見せる。志保 「それ、何で!!!」 冬は、その写真に固まる。 「大切な人なんやね!冬」 「そんなんやない。」 「へー。じゃあ、この人の幸せ壊してもええんやね」 ニコッと笑ってる目は、何も笑っていなかった。 怖い、それでも守らなければいけない。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加