【心だけが繋がらない】⑧

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【心だけが繋がらない】⑧

「何でもゆうこと聞くから」 「ほんなら、私と付き合ってくれる?」 「妊娠してるんやろ?」 「してるわけないやん!冬は、何でも信じちゃうんやね」 そう言って、志保は冬の頬を優しく撫でる。 「そんな…。」 「ほんなら、この人の幸せ壊していいの?」 「やめてくれ。何でもゆうこと聞くから」 「ほんなら、駅まで送るわ」 「えっ?」 「ちゃんと、お別れしてきて。」 「今日か?」 「当たり前やん!それか、もうする?」 「俺、出来へんかもしれんって」 「目閉じてたら一緒やん。お尻つこたらええんやろ?」 ニヤリと志保は、笑った。 舌で、無理矢理口をこじ開けてキスをされる。 「なあー、冬。ちゃんとケジメつけてきてや」 そう言われて、頷くしか出来ない冬。 エンジンをかけて、志保は冬を駅まで送る。 駅について、冬の番号を聞き出して登録する。 「ほんならね、冬」 「じゃあ」 冬は、駅の改札を抜ける。 このまま、消えてしまいたい衝動にかられた。 ホームで、涙を流す冬。 どうしたらいいかわからなかった。 志保が、見せた写真。 守る為に、自分が出来ること 「危ないで!」 「秋?」 フラフラ歩いていたようだった。 「誰、それ?」 「あっ、すみません。」 電車が、やってきて冬は電車に乗る。 秋だと思った人は、目の前に座った。 同じ駅で降りた。 「あれ、一緒やったんやね」 「そうみたいですね」 「体調悪かったんやない?大丈夫?」 「大丈夫です。」 「なら、よかった。じゃあ、またね」 「はい」 改札で別れた。 まるっきり、秋だった。 秋の墓の前で、秋の元カノとキスをしたからだ。 だから、秋が怒って現れたのだ。 一日お墓の前で語り合うつもりだった。 なのに、何であんな事になった。 最悪だった。 冬は、歩いて家に帰る。 夏にワンムを送るのを躊躇う。 どうしたら、いいのかわからなくて冬は、家のカギを開けた。 最悪だった。 洗面所に向かって、赤く腫れ上がるまで唇を洗い続けた。 女の人とキスするのは、気持ち悪い。 目を瞑って夏を思いながら、彼女を抱くのか…。 想像しただけで、吐き気がする。 でも、志保が見せた写真が頭を過る。 夏………。 俺……………。 冷蔵庫から、ビールを取り出した。 冬は、頭を抱えながら、昼間からビールを飲み続けた。 . . . . . . 一方、夏。 「いらっしゃいませ」 「お願いします。」 「春?」 「えっ?」 「あっ、すみません。」 お客さんに来た人が、春ソックリで驚いた。 「ありがとうございました」 「ありがとう」 心臓が、ドキドキ速くなった。 驚いた!!似た人間は、三人いると言うけれど、さっきの人は春そのものだった。 バイトが終わって、スマホを見る夏。 冬からの連絡はなかった。 冬に連絡する。 何度かけても、冬が出ない。 急に心配になって、早歩きで冬の家に向かう。 嫌な予感しかしない。 ピンポーン、ピンポーン 電話もインターホンも、冬は出ない。 合鍵を貰っておけばよかった。 何度も、何度も、繰り返した。 冬は、全然気づかない。 「冬、なにしてんねん」 階段に座って、夏はまたスマホを鳴らす。 何度鳴らしても、冬は全くでない。 それでも、夏は何度も何度も冬のスマホを鳴らし続ける。 冬は、いっこうに出ない。 ずっと、鳴らし続ける。 ワンムからも鳴らす。 出てよ、出てよ。 祈りながら何度も、何度も、冬に連絡する。 もう、冬がいないのは考えられなくなった身体を抱き締めながら、何度も何度も何度も冬に連絡する。 21時に仕事が終わってから、一時間以上かけてる。 それでも、冬は電話に出ない。 階段に座って、どれだけ電話を鳴らせば冬は出てくるのだろうか… 冬出てよ。 冬…………。 膝を抱えながら、泣きそうになるのを夏はこらえていた。
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