【心だけが繋がらない】⑨

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【心だけが繋がらない】⑨

かわって、冬ー トイレに行きたくて、目が覚めた。 ブー、ブー スマホが鳴っている。 手に持ったまま眠って、どこかのタイミングでバイブにしていたようだった。 着信画面を見ると、夏だった。 「もしもし」 『冬、どこにおるん?』 その声に泣いているのが、すぐにわかった。 「ごめん。トイレ行っていいかな?今、起きて」 『うん』 冬は、保留にしてトイレに行く。 「ごめん。」 『ううん』 ガチャ…。 鍵を開けて扉を開けると、目の前の階段に夏の姿が見えた。 家から出て、冬は夏を抱き締める。 「冬」 「ごめん。俺、やっぱり無理やわ」 「何が?」 冬は、夏を立たせて家に連れて帰る。 ソファーに座らせた。 「どないしたん?冬」 「何もない。」 「赤いよ。唇」 夏は、唇を(さわ)る。 冬は、夏の唇にキスをする。 「やっぱり、無理やわ」 「何が?」 「俺、秋の元カノに脅迫されてるねん。夏の幸せ守る為に、あいつとそうなろうと思っとったけどやっぱり出来んわ」 「せんでええよ。僕の傍におって」 「ゲイってバレるかもしれんで」 「ええよ。仕事辞めなアカンなってもええ。さっき、めっちゃ悲しかったんやで。冬がいななる思ったら悲しかった。せやから、どこもいかんとって」 「それって、心も俺に向いてるって事?」 「いや、それはない。」 「ハハハ、わかっとるよ。俺かて同じやから。」 冬は、夏を抱き締める。 いつものように、身体の関係になった。 「明日、不動産見に行こうな。」 「うん、行こう」 夏は、冬の胸に顔を埋める。 そのまま、眠って朝を迎えた二人 ブー、ブーと冬の着信が鳴る。 夏は、志保ちゃんと書かれた着信画面を見つめる。 「おはよ」 また、着信が鳴る。 冬の顔が、強ばる。 夏は、電話に勝手に出る。 「もしもし、冬は渡さないんで。さよなら」 そう言って、夏が電話を切った。 「ハハハハ、何やそれ?一方的やろ?」 「アカンかった?」 「ええよ。別に」 冬は、夏を抱き締める。 何度も、何度も、志保から着信が来る。 夏は、それを拒否した。 何度も何度も繰り返した。 まるで、所有物だな。冬は、笑って夏を見ていた。 夏の所有物である事が、嬉しいと感じるのだ。 それは、愛しいや切ないなどではない。 ただ、ホッとするだけ…。 でも、夏に好きな人が出来たらどうぞって笑顔で送り出せる。 これは、いったい何なのだろうか…。 「用意して行こう。不動産屋さん」 「そうやな」 「朝御飯、外で食おうや」 「うん」 身支度を整えて、夏と一緒に家を出た。 歩きながら、夏と冬は同じ事を思っていた。 飛び越えられん季節と同じで、心が向こう側にあって捕まえられない。 「朝定食にしよ!」 みつきと言う店に入った。 ここの朝定食は、絶品だった。 二人で、朝定食を食べて外に出る。 不動産屋さんに入った。 「私、柏木いいます。物件ですね」 「アパートがいいんですが」 「あー。ちょうど2日前に空いた物件ありますよ。見に行きますか?」 そう言われて、柏木さんにアパートに連れてこられる。 「こちらです。」 そう言われて、鍵を開けてくれて中に入る。 「2LDKになっています。お風呂とトイレは別です。お二人で住まれるには、充分だと思いますよ。」 「夏は、どう?」 「ええと思うよ。前の家からは、ちょっと遠いけど充分やと思う。」 「じゃあ、ここにします。」 「よかったです。」 俺達は、戻って契約をした。 「明日とかからでも住めますか?」 「はい、可能ですよ。」 「ほんなら、僕が先、住みにこようかな」 「荷物は?」 「本間や!冬が、先に住んだら?荷物ないやん」 「そうやね」 冬は、夏に笑いかける。 「明日、もう一日休みあるやろ?」 「そうやね!」 「それでは、鍵がこちらになります。」 「明日、引っ越します。」 「はい、わかりました。」 柏木さんに頭を下げられて、夏と冬は帰宅した。 「ほんなら、冬の家、片そう」 「せやな!」 夏と冬は、冬の家に一旦帰宅する。 冬の車で、梱包材を購入して戻ってくる。 「冬は、何もないからええよな」 「せやな」 「ベッドとソファーは?どないする?」 「新しいの買わんか?二人で住む為に!」 「そやな!じゃあ、明日見に行こう。ここは、いつ解約するん?」 「来週の日曜日には、するよ」 「そっか」 夏は、嬉しくて冬に抱きついていた。 冬の家を一緒に、片付けた。 「明日、引っ越し先に荷物持ってったら、買いに行こう」 「せやな!」 夏は、冬を誘惑する。 冬は、夏を受け入れた。 また、こうやって身体が満たされていく。 「おかんに、一人暮らしするって言うわな!日曜日までに、引っ越すから…。なっ?」 「うん」 また、夏は、冬を求めていた。
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