【心だけが繋がらない】⑪

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【心だけが繋がらない】⑪

「あっ!ホームに落ちそうになってた人やんか」 「初めまして、成瀬です。」 「初めまして、篠村結です。顔色もよくなってよかったわ!心配してたんやで」 秋に似たその人の言葉に、涙が流れてくる。 「大丈夫?」 「あっ、すみません」 冬は、涙を拭っていた。 「冬」 夏が、顔を出した。 「恋人同士ですか?」 「まー。そんな感じです。」 「奇遇ですね。和には会いました?俺と和もそうなんですよ」 そう言って、篠村さんは笑っていた。 「そうなんですね」 「これから、宜しくお願いします。失礼します。」 「はい」 冬と夏も、部屋に入った。 「ごめん。夏……。俺無理かも」 「隣の人か?」 「うん。そやな」 「僕も、同じや。何か、ごめん。」 心が抉れる程、愛した人 心が刺される程、愛した人 苦しくても、傍にいた人 痛くても、傍にいた人 心を繋いでいたかった人 そんな人だった、春と秋が…。 別の人間だとしても、存在している。 どうすればいいのか、夏と冬にはわからなかった。 「冬、バイト行くわ」 「俺も、引っ越し業者、連絡するわ。送る?」 「ええよ!歩いていくわ」 今は、ただ傍にいたくなかった。 出ていく、夏。 バタンと閉じた扉を冬は見つめていた。 出て行った夏に切り替わる。 「三上さんだっけ?あの、どっかで会わへんかった?」 何というタイミングで、会うのだ。 「あの…。」 「あー。俺のバイト近くのコンビニの店員さんや!途中まで、一緒に行かへん?」 「はい」 ドキドキが、止まらない。 冬への罪悪感もある。 「大丈夫?ハンカチつこて」 この人が、嫌な人ならよかった。 嫌、15年前に、この人を見つけていたらよかった。 「ありがとう」 「さっきの彼氏と喧嘩した?」 「まあ、そんな」 「俺も、結と喧嘩するからわかるわ!あんま、同じ境遇の人おらんかったから…。相談相手なってくれへんかな?」 「あっ!はい。いいですよ」 何が、いいですよだ!! アホな自分を呪い殺してしまいたかった。 でも、春に似たこの人を見ていると繋がっていたいと思ってしまう。 . . . . . 一方、冬…。 ピンポーン ガチャ…。 「はい」 「あの、大丈夫ですか?ちょっと話しませんか?心配やったんです。」 「えっと…。」 「カフェ行きませんか?」 「あっ、はい」 鍵を閉めて、秋に似たその人についていく。 「彼と喧嘩した日やったんですね?あの日」 「はい」 はいと嘘をつくアホな自分 「そんなに、好きなんやねー。わかりますよ」 「はい」 夏への罪悪感と、この人の優しさが辛い。 「また、喧嘩したん?」 「あっ、そうやね」 そうやねじゃないと突っ込みたくなる気持ちを押さえると涙がツゥーと流れてくる。 「俺も喧嘩するからわかるで!辛いよな」 「はい」 「たまには、話聞くで。あっ、ここ、ここ」 そう言われて、カフェに入った。 「ここのサンドウィッチうまいんやで!玉子サンド」 驚いた顔で、その人を見た!! 「どないしたん?幽霊みた顔して」 「ううん、何もないです。」 「敬語やなくてええよ。」 注文する、もしこの人がキャラメルマキアートを注文したら俺は、この気持ちが止められないのがわかる。 「えっと、玉子サンド2つと」 「アイスコーヒーで」 「じゃあ、それと…。キャラメルマキアートで!」 その言葉に、冬は動揺を隠しきれなかった。 商品を受け取った篠宮さんは、冬に声をかける。 「あっちに、座ろうか」 「うん」 ついていく、冬。 向い合わせで、席についた。 「何歳?」 「37歳」 「へー。同い年やん。」 「そうなんやね」 「かず、あっ!さっきの人と付き合って10年なるねん。こっちに引っ越してきて、15年なる。」 「そうなんやね」 「うん」 心臓が、壊れそうな程にうるさい。 37歳の秋に会って、涙が止まらなかった。 口を開けば好きって言ってしまいそうな気がした。 気持ちを押さえて冬は、玉子サンドを食べる。 一方、夏は…。 「朝御飯、食べてなかったんよなー。まだ時間ある?」 「うん」 パン屋さんに入る。 もし、この人がアンパンとミルクティーをとったなら、気持ちが止められないと夏は思う。 「何がいい?」 「クリームパン」 「わかった」 アンパンを取った。 「飲み物は?」 「カフェオレ」 「俺は、ミルクティー。珈琲苦手やねん」 その言葉に、夏は固まった。 「おごるよ、近くの公園で食べてこー。」 そう言ってお金を払ってる腕を掴んで好きと言ってしまいたかった。 胸の痛み、冬への罪悪感で息が苦しくなる。 それでも、この気持ちを押さえられないと感じながら夏は、店を出て並んで歩き出す。
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