真っ赤な

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「ねえ、灯里(ともり)。明日遊園地、行こっか」  また、嘘。  こんな時まで付きまとってくる嘘に嫌気がさしてわたしは目を閉じた。  次の日、目を刺すような眩しさで目が覚めた。勝手に部屋に入ってきていたお母さんがカーテンを開けながらなにやら準備をしている。 「な、何してるの?」 「行くよ、遊園地」  混乱の中着いたのは小さく寂れた遊園地。家から30分もかからないところにあるこども用の遊園地だ。それでも。お母さんが初めて嘘でなく遊園地に連れてきてくれたことが嬉しかった。そんなことを言うのは恥ずかしかったから、せめてもと足元ではなく前を向いたまま園内を見て回った。 「ごめん」 「いいよ」  それだけだった。わたしとお母さんの長かった喧嘩はこれで終わり。あの日の約束を果たしてくれたからもういいんだ。だから、わたしも守るよお母さんとの約束。 「もう切らないから」 「うん」  風が吹いた。長い髪を耳にかけて下を向くお母さんの目には涙がひとつ。思えばシングルマザーのお母さんなりの楽しませ方だったのかもしれない。苦しい生活の中での精一杯の末の嘘だったのかもしれない。たとえ許されない嘘ばかりが転がっている家だとしても、わたしの家はあの家だ。だから。 「帰ろうか、お母さん」 「帰ったら高級レストランのハンバーグだよ」 「ふふっ、たのしみにしてるよ」  背中を押すのにもう風は要らない。  この頃にはもう風は止んでいて、静かで綺麗な赤い夕焼けだけが空をおおっていた。  
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