真っ赤な

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 お母さんが嘘をつきはじめたのはいつからだったっけ。幼い頃、物心着く頃にはもうこんな生活だった気がする。リビングのテーブルに座ったままわたしは過去を振り返った。  明日は遊園地に連れていくからね、なんてのは何回聞いた嘘だろうか。幼かったわたしはそれを信じて何回も裏切られてきた。次の日の用意をしながら楽しみにしていても、朝が来ればいつもの朝が待っていた。遊園地になんて行くことはなく、買い置かれたコンビニの菓子パンだけがリビングのテーブルの上に置かれているだけだった。  わたしはその中のひとつを選んで無言で頬張る。昨日のお母さんの言葉など気にもしていないんだと、そうお母さんに見せつけるように塩気のやたらと強い菓子パンを数回噛んだだけで飲み込んでいく。落ちそうな涙を、ふとももを強く握りしめることでなんとか耐えて、喉元を通る大きなパンの塊で死んでしまえたら、なんて思ったりして。  そんな幼少期。
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