真っ赤な

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 わたしのお母さんは嘘つきだ。  汗ばんだ制服を脱ぎながらため息をついたわたしは、リビングのソファーで寝転んでいるお母さんに目をやった。 「おかえり〜。お母さん今日この人と電話してたのよ」  指さす先にはドラマの再放送に出ている有名俳優が映っている。到底、こんな普通の主婦が電話出来る相手ではない。けれどこんなことはもう日常茶飯事で、嫌でもすっかり慣れてしまった。それでも、もしもと思って電話の最中にお母さんの携帯に電話をしてみたことがある。本当にそんな相手と電話をしているのなら、着信音なんて鳴らないはず。でも。嘘を濃くするように聞き慣れた着信音がお母さんの耳元から流れてきた。その時わたしは悟ったのだ。この人にはもう何も期待しないって。 「ねえ〜、明日学校休んで遊園地でも行っちゃう?」  またひとつ重なる嘘。どうせそれも嘘になるんだ。  部屋着に着替えたわたしは麦茶をコップに入れて飲み干した。お母さんに言いたいこととともに。今日もひとつ、この家に嘘が増えたことにも目を瞑って。
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