午後10時30分

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午後10時30分

 立川駅前のバス停留所には、十数人の列が出来上がっていた。  季節は10月に入ったばかりだが、最近の異常気象のせいか、昼間からポカポカ陽気で、夜も冷え込むことはなく、半袖でも歩けるほどだった。  現在時刻は午後10時。列には老若男女問わず、思い思いの出で立ちで、夜行バスを待っていた。  その中に、子連れの母娘がいた。娘はまだ四歳程度で、バス待ちに飽きたのか、母親に抱っこをせがんでいた。  母親はむずかる娘を無視して、スマホに熱中していた。  その後ろにはカップルがいた。なにやら地図を広げて、額を突き合わせていた。これから宝探しにでも行くような雰囲気だ。  その後ろには中年男性がスマホに向かって、忌々しそうに怒鳴っていた。その怒鳴り声に、前にいたカップルが迷惑そうに見やる。そんな視線に気づいて、気まずそうな顔をしながら背中を丸めて、スマホに話しかけていた。  高松行きの夜行バスが定刻通り、バス停に進入してきた。青い車体が街路灯に照らされ、エンジンを唸らせた。  バスはまるで、大きな馬が一時の休息をするかのように、身体を震わせた。
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