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「よし、出席をとるぞー」
教卓に手をついた古文の教師が声を張り上げる。
「新谷―。猪尾―。右京―。木下―。九条―。……あれ、九条は休みか?」
教師は教室を見回して言った。
「今日お休みなんだっけ」
また先ほどの女子の声が聞こえる。
「だって、ほら。今日始業式じゃん?」
もう一人の女子も答える。
「ああ。人ごみ苦手だもんね」
響生は眉間に皺を寄せた。
(なんだそれ。人混みが苦手とか……)
拳を握る。
(めっちゃ女子じゃん!庇ってあげたくなる系の女子じゃん!!)
東京のクラスメイトの中には、貧血を起こすとか少し身体が弱いとかそういう可愛らしい女子生徒はいなかった。
「しかもあんなに美人だから我先に保健室に連れて行こうと、すぐに生徒が群がっちゃって……。卒業式の時大変だったじゃん?卒業生の保護者から苦情まで来たりして」
(しかもそんなに美しいの……!?)
「だから自粛してるらしいよ。先生も容認してるんだって」
(やべ。完璧興味湧いてきた。九条さんに……!)
「せんせーい」
響生が勝手に色白の黒髪ロングの美少女を妄想したところで、前の方に座っていた数人の男子がニヤニヤとこちらを振り返った。
「転校生の阿比留くんがまだ呼ばれていませーん」
「おっと、これは失礼。あ、阿比留君」
響生は手を上げながら、男たちを見つめた。
彼らは椅子の背もたれに肘を置いたまま、まだほくそ笑んでいた。
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