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「―――――」
響生は声がした生垣を振り返った。
しかしいつまで待ってもそこからは駐在どころか、先ほどの声の主さえ出てこない。
(さっきから感じていた視線はあの子か……)
別に助けてもらわなくてもよかったのに。
そんな言葉が喉元まで出かける。
東京生まれ、東京育ち。
明らかに異常な運の悪さは、都会の子供が気味悪がってイジメるにはもってこいのネタだった。
イジメられないため。
イジメられても負けないため。
動画サイトで身に着けた護身術は、柔道と合気道と空手・テコンドーのミックスだ。
大抵の奴になら勝てる。
本当なら、明日から無駄に絡まれないために徹底的にやってやりたかったのだが。
(しかしまあ、善意で助けてくれたんだろうし、ここはお礼を。……女子だしな)
響生は息を吸い込んだ。
「ありがとう!出て来いよ!取って食ったりしないから!」
しばらくすると、やっと黒い髪がぴょんと覗いた。
(ツインテール……)
響生が瞬きをしながら待っていると、やっと観念したのか、生垣の影から女子高生が姿を現した。
紺色のセーラー服。響生と同じ霞城高等学校の制服だ。
「……!!」
顔を見た響生は口をあんぐりと開けた。
黒髪ロングのツインテール。
色白な肌に、ピンク色の唇。
大きい目に小柄なわりに大きな胸。
風になびくセーラー服ごとフィギアにしたいような美少女が立っていた。
「あ……もしかして君が……」
(九条さん……!?)
駆け寄ろうとしたところで、女子高生は響生に向かって小さな手を掲げた。
「……え?」
「阿比留さん!」
彼女はルックス通りの少し幼い声で言った。
「突然で申し訳ありませんが、私に付き合ってくれませんか?」
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